今までインプットをおざなりにして生きてきたことを反省し、アニメや映画やラノベを見てブログに感想と学びを書いていこうと思い立ちました。
そうして始まった【感想と学び】シリーズの7作目、映画【カラーパープル】を書いていきます。
ネタバレもちろんあります。作品の説明は最低限にしかしません。
簡単な紹介
黒人の少女セリーは、母を亡くして妹のネティと共に実家で働きながら暮らしていた。
セリーは子供を二人産んでも男側の判断によって引き離されるなど苦労の日々を送っていたが、妹のネティと支え合っていた。
ある日、妹のネティはナンパされる。嫌がるネティに対して男は実家に向かい二人の父親にあの少女を嫁にくれと伝える。すると父親は勉強のできるネティの代わりに姉である醜いセリーを男に渡した。
そうしてセリーは男:ミスターと夫婦の関係になる。
地主であるミスターは既に三人の子供がいた。廃墟のような家は、今までの妻はみなミスターから逃げたことを意味していた。
激しい虐待を受けて自らの不運に苦しむセリーだが、そんなセリーの元に妹のネティがやってくる。セリーと共に働くことを条件にしてミスターはネティを迎え入れる。
しかしそんな日は続かない。ネティはミスターの夜這いに反抗し、激情したミスターによって家を追い出されてしまう。ミスターはセリーに妹と会わないことを誓わせ、セリーは絶望の中でミスターに服従を続けることになった。
ネティは去り際セリーに毎週手紙を送ると叫ぶも、郵便受けをセリーが触ることは許されず、セリーはネティからの手紙が来ているかも確認することができなかった。
時は経ち、ミスターの子供達は大きくなった。そのうちの一人であるハーポは、エネルギッシュな女性ソフィアとの間に子をなして結婚する。ハーポは父に反抗してかつて祖父から認められた自らの土地である沼地に家を建設し、ソフィアとは幸せな生活を送る。
だがハーポはソフィアが妻であるにも関わらず夫の自分に服従しないことが気に入らず、セリーにどうしたら彼女を支配できるかと相談する。男に抗い強く生きていき、その結果として幸せをつかんでいるソフィアを祝福しながらも内心では許せなかったのか、セリーはハーポに妻は殴れば支配できるとアドバイスしてしまう。
結果、ハーポからの暴力に激怒したソフィアは家を出て行ってしまう。ソフィアは親にも親戚にも抗い続け、自分は誰の下にもつかないことを信条としていた。ハーポのことを愛しつつもハーポに支配されることを彼女は強く拒絶したのだった。
再び時が流れ、今度は歌姫シュグが街に現れる。ミュージシャンでもあるミスターはシュグのことを愛しており、彼女を家に招き入れる。シンガーとして成功を収めていたシュグはミスターの家で彼に愛されつつも自由に振舞う。そんなシュグは次第にセリーのことを気に入っていく。
セリーはシュグと惹かれ合い、やがてシュグはセリーを都会に連れ出す。映画を観た二人は口づけをし、愛とは何なのかと歌う。
シュグの導きによって、セリーはミスターが隠し続けていたネティからの手紙を発見する。これまでに届いていた手紙を読んでネティの現状を知ってセリーは嬉しさのあまり涙する。ネティは使用人としてセリーの子供達と共に国外で生活していたのだった。
やがてシュグは都会に戻ってしまう。セリーは貴女がいてくれないとまたミスターからの暴行の日が続くと縋るが、シュグは抗いなさいと伝えて去る。
時が流れ、ソフィアはボクサーとの間に新たな子をもうけるなど新たな生活を送っていた。そんな彼女はセリーの元に現れ、たまたま通りかかったからと彼女を自らの家族と共に都会に連れていく。
ただしそこでソフィアは市長の夫人である白人女性に目をつけられてしまい、自らの下で働かないかと奴隷としての勧誘を受ける。誰にも服従したくないソフィアは家族のためにも拒絶して抵抗するのだが、それは当時としては犯罪であり、投獄されることになる。
しばらくのちに奴隷としての生活を認める形でソフィアは釈放されるが、彼女は従来の生気を失っていた。
シュグが街に帰ってきた。ミスターは歓迎パーティを行う。しかしシュグは男性と結婚していた。
パーティーの場でシュグはセリーも新たな家に連れていくとミスターに宣言する。ミスターは鼻で笑うが、セリーはこれまでの鬱憤を晴らすようにミスターを罵倒し、その言葉と投獄生活中に毎週必ず面会に来てくれたというセリーの姿に鼓舞されてソフィアも自らの反抗的なエネルギーを取り戻す。
やがてセリーはシュグとともに家を出ていく。セリーはミスターに向かって「私を虐げる限りあなたには不幸が訪れるだろう」と言い放つ。
セリーを失ったミスターは、やがてセリーの言葉を体現するかのように災難に会い、己の振る舞いを見つめなおしていく。一方でセリーはシュグとの生活を満喫していた。
さらにセリーは自らの父親の死をきっかけにして、実は死んだ父親は父親ではなかったこと、正当な土地所有の権利などは自分とネティにあったことを知り、実家の服飾店の経営者となる。
ミスターは自らの元に届いたセリー宛のネティの手紙に書かれていた身元保証人の頼みを引き受け、事情により国外に出ていたネティが米国に戻るための手助けをする。
ミスターはセリーに赦しを乞い、セリーは友達になろうとミスターを許す。
最終的にはネティがセリーの子供達も連れて現れ、登場人物みんなで賛美歌を歌って終了する。
ミュージカル映画のパワフルさ
まず感じたのは、みんな歌が上手いということです。
とにかく上手い。とても力強く、気持ちが良い。最初の歌の時点でこの映画を観てよかったなと思いました。陰鬱な展開が続く中で活力に満ちた歌が頼もしく感じました。
この作品は元々は小説だったものを映画化し、その映画をミュージカル化し、そのミュージカルを今回映画化しているらしいです。
ミュージカル映画らしく、随所でミュージカル的な演出がありました。やや大げさな雨だとかもそうですね。
だからミュージカルのあの突然さとかが受け入れられない人には合わないかもしれません。
個人的には、とても素晴らしいミュージカル映画だと思いました。ミュージカル映画だからこそ最後まで楽しく見られたかなとも思います。これ歌がなかったら作中かなりの時間が暗いですからね。暴力シーンもありますし……。
現実的な非力さ
「虐げられている黒人女性たち」が作品の根底にあって、これ原作小説は1982年のものだそうですが、作品として白人と男性に対する怒りがある気がします。
作中の時代はおおむね20世紀の前期から中期で、黒人女性なんてがっつり人権がない時代なわけです。
白人女性でさえ70年代とかの女性解放運動までは差別が多かったので、まして黒人ならもっと酷かったでしょう。
作中でネティが何度か「人類の祖はアフリカにいる黒人だった」という趣旨のことを言っており、白人を見返そうという原作者の意図を感じます。
もっとも、この作者が黒人かどうかも女性かどうかも私は調べていませんが。
リアリティがあるなと思ったのは、作中において「強い女性」としてソフィアやシュグが登場するわけですが、彼女たちですら大きな力には抗うことができていないんです。
ソフィアは暴力には暴力で立ち向かう女性ですが、彼女は白人である市長夫人に逆らったことで投獄され心を折られてしまいます。社会には勝てませんでした。
さらにはハーポにさよならを告げてはいますが、描写的に彼女はハーポとは離婚しておらず、形式上は彼女が不倫の形で男との間に子供を作っていることになっているものと思われます。当時の法律を私は知らないのですが、女性からの夫婦関係の解消が認められなかったのではないでしょうか。
シュグは歌姫であり、あらゆる男女が振り向くと表現されています。彼女の美貌と歌声には誰もが魅了されてしまい、黒人女性でありながら都会に豪華な家を建てるに至るほどの成功者です。
しかしそんな彼女は実は街の黒人牧師の娘であり、現在は別の女性が牧師と結婚していることから父親と会うことを許されていませんでした。
神はセリーの中にいる
作中で神はどこにいるのか、神はなぜこんなひどいことをするのか、などと問われています。そして神は貴女の心の中にいるという歌詞も流れます。
投獄中に毎週来てくれたセリーに対して、ソフィアは神に思えたとすら言っています。
ソフィアが力で男と戦う姿を見ても、シュグが男に縛られずに自由に振舞う姿を見ても、セリーはミスターに逆らいません。ミスターから去ったのもシュグが迎えに来てくれたからです。そして彼女は改心したミスターを赦してすらいます。
ミスターから去る際に「私を虐げる限りあなたに不幸が訪れる」と言い放ち、ミスターが雨の中で神に改めるから赦してくれと嘆くシーンを挟んで、彼女はミスターを赦します。
ミスターはネティの帰国のために自らの土地すらも一部売却して金銭面を工面しているのでセリーからすれば大きな恩になるのですが、セリーはそのことを知らない状態で既にミスターを赦しています。
これらは上述した黒人女性の立場の弱さ、女性が抗うということがそもそも異端とされる時代背景を示していると思います。
セリーは心の弱い女性ではなく当時を生きた一般的な黒人女性であり、そして苦難の中でも強く生きた彼女の中に神はいたというメッセージなのではないでしょうか。
ミスターもまた冷酷な男性ではなく、当時を生きる地主の男性は黒人相手に限って支配階級であり、女性を虐げ支配することは不思議なことでもなかったのでしょう。
ミスターの父も女性に対する蔑視発言をしており、ミスターは生まれた時からそれが当たり前だという価値観で生きてきたのだとにおわせています。同じようにミスターが日常的に暴力でセリーを支配する様を見てきたハーポは、愛し合って結婚したはずのソフィアがなぜ自分に従順でないのか不思議そうにしていました。それは普遍性を示していたのでしょう。
こうしたところに、社会への怒りを感じるなと思ったのでした。
感想
めっちゃ面白かったです。
もうめちゃくちゃに良かったです。
ストーリー、演出、演技、歌。どれも良かったです。
どのキャストさんも歌が本当に上手いですよ。
めちゃくちゃ聞けます。もうそれだけでも満足できるくらいには。
映画としてちょっと長くて2時間半あります。
それでも元がミュージカルなこともあってか舞台転換が多かったりして、展開は早く感じるかもしれません。それだけ濃密な作品です。
とにかくよかったです。
やっぱミュージカルって良いですね。
ミュージカル熱がめっちゃ再燃しました。最高でした。
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