2024年、日本馬の海外遠征での勝利の報は少なくなりました。
惜しくも勝ちきれなかったレースもあれば、全く通用しなかったレースもあります。
2023年にはサウジCとドバイWCという大賞金コースを勝利し、イクイノックスが世界一の馬となり、デルマソトガケがBCであわやの2着となりました。それに比べると確かに成績では見劣りします。
果たして日本馬のレベルは低くなったのでしょうか。日本の馬のレベルは、いま世界でどれくらいなのでしょうか。
考えてみます。
日本馬のレベルは落ちたのか
まず初めに「世代レベル」の議論は不毛だと思っています。
なぜならその議論は「世代全体での実績」を語る人と「世代全体での層の厚さ」を語る人とがいるから。
その思想を前提として読んで欲しいのですが、私は23世代のレベルは少し落ちたかなとは思います。というかここ数年が高すぎたんですよ。20世代はダートの層がとても厚く、21世代と22世代はともにダービーがハイレベルなレコード決着でした。
23世代についてはコロナで育成に支障が出た疑惑があるほかに、主要種牡馬についても思うところがあります。
21世代 | 22世代 | 23世代 | 24世代 | 25世代 |
---|---|---|---|---|
ディープ 3000万 | ディープ 4000万 | ディープ 4000万 | ロードカナロア 2000万 | ロードカナロア 2000万 |
キンカメ 1000万 | キンカメ 1200万 | ロードカナロア 1500万 | ハーツクライ 1000万 | ドゥラメンテ エピファネイア |
ハーツクライ 800万 | ハーツクライ 800万 | ハーツクライ 800万 | ドゥラメンテ 700万 | キズナ 3頭 1000万 |
オルフェーヴル 600万 | ロードカナロア 800万 | ドゥラメンテ 600万 | キズナ ダイワメジャー | モーリス 800万 |
ダイワメジャー 500万 | キタサン オルフェーヴル | ハービンジャー 600万 | ハービンジャー ブリモル | サートゥル ブリモル |
ロードカナロア 500万 | ダイワメジャー 3頭 500万 | ダイワメジャー 500万 | ルーラーシップ レイデオロ | レイデオロ 3頭 600万 |
6頭 600万 |
種牡馬についての評価なんかはまた別の記事に書くとして、ここではざっくり種付料を基準に見ていきます。なお一部プライベート種牡馬も含まれています。
まず圧倒的に注目するべきは大種牡馬ディープインパクトがいなくなったこと。23世代は国内だと6頭しかいないので、ほぼ不在。前年22世代では春天馬ジャスティンパレス、菊花賞馬アスクビクターモアなど多くの名馬を輩出していたので、ディープ不在の穴は大きかったです。
23世代でディープ不在の穴を埋めたのはロードカナロア。この世代はディープ用の繁殖は多くがカナロアに回され、その結果としてかなりの繁殖が集まりました。ですからルガルやベラジオオペラやブレイディヴェーグと名馬が誕生し、黄金世代を予感させています。
24世代以降もディープインパクトとキングカメハメハはいないわけですが、こちらは初年度産駒の実績で繁殖の質が上がったキズナとエピファネイアがいます。ロードカナロアが役者不足というわけではないんですが彼は晩成傾向な上に距離も短めなのでクラシックを華やかにするのは苦手です。
23世代はエピファネイアが不発だったのも大きいですよね。ドゥラメンテは牝馬三冠馬リバティアイランドを輩出しましたが、エピファネイアは期待されたミッキーカプチーノが負傷離脱すると、牝馬のモリアーナくらいになってしまいました。
地味にハーツクライもハーパーが上手く成長できず、ダイワメジャーはカナロア同様に短距離種牡馬、モーリスやハービンジャーは晩成、といった風に噛み合いが悪くなってしまいました。ダービー馬タスティエーラがサトノクラウン産駒なのはまさにですよね。
欧州馬のレベルは?
2024年ドバイSCとBCターフ、ともに日本馬の前に立ちはだかったRebel’s Romance(レベルスロマンス)は、普通に強い馬です。戦績を見て貰えば分かりますが、調子を崩していた時期以外は芝2400に戦場を移してからは勝ちまくってますからね。
それから香港。もともと日本馬は香港の短距離ではなかなか勝てていなくて、ただ2000以上なら勝負できていました。今年もプログノーシスやノースブリッジが良い勝負をしていて、だからこれも日本馬が弱くなったというより相手が強いんですよ。安田記念すら勝たれていますしね。
スプリントはここ数年は低迷していましたが、それは本来引っ張るはずのピクシーナイトが大事故で故障してしまったこと、そしてメイケイエールも能力を出し切るのが難しかったことがあるでしょう。ただ上述したようにカナロア黄金世代が控えていますし、モーリスやアドマイヤマーズのような種牡馬も人気していますから、ここから短距離は持ち直せるのではないかと思っています。
マイルに関しては21世代が層も厚く強かったのですが、続く22,23世代はあまり層が厚くなく、VMでは出走馬中2頭しかいなかった21世代がワンツーフィニッシュを決めることにもなりました。しかしこちらも24世代以降は持ち直すことができると思われます。
いずれにしても香港の1600〜2000はここ数年相手が強すぎました。ジャンタルマンタルが無事ならこの冬に見てみたかったんですけどね……。
それから1200は世界的な競馬の短距離化傾向から見て、日本の馬産の方向性から今後も海外遠征して一線級と戦うのは厳しくなりそうです。
日本の馬産は「2000のスピードの馬に2400走らせる」を目指しています。だから3000を勝ち負けできるような馬が種牡馬としてもクラシックで結果を残すことが多いです。キタサンブラック、ゴールドシップ、エピファネイア、いずれも皐月賞で好走した菊花賞馬です。
対して欧州や豪州の馬産は「1200の馬に1600を、1600の馬に2000以上を走らせる」を目標としています。だからダービーやキングジョージを勝つよりも2000ギニーやゴールデンスリッパーSを勝つことの方が種牡馬価値があるわけですね。
米国馬のレベルは?
近年、ダート三冠改革もあり勢い付いている日本馬のダート戦線。AWではないダートで米国の一流馬相手にサウジやドバイで勝利し、ケンタッキーやBCでも善戦しました。これまでを思うと感慨深くなる結果です。
ただ、正直言うと私はここ数年の米国馬のレベルは高くなかったと思っています。そして逆に、今年の3歳世代(24世代)は強い方だと思います。
極めて単純な根拠として、今年のBCでは上位は3歳馬が独占しましたよね。昨年のBCでは好走したデルマソトガケや中東で勝ち負けしてきたウシュバテソーロも馬券圏内からは離されました。
古馬に抜きん出た馬はいないと思っています。Country Grammer(カントリーグラマー)もGⅠで安定してはいましたが勝ったのは2度ですし、BC4着のNewgate(ニューゲート)も55kgでハンデGⅠを勝っているだけ。National Toreasure(ナショナルトレジャー)が安定すればというところです。
ベイヤー指数でレースレベルを考えてみる
ベイヤー指数というものがあります。
どんなものなのかは調べてみてください。簡単に言えば前後のレースの時計などから条件を考慮して補正をかけ、そのレースにおけるパフォーマンスを同一規格で数値化しようというものです。
たとえば3月に西海岸の競馬場のGⅢで指数100出した馬と、10月に東海岸にある競馬場のGⅠで指数102出した馬がいたとします。
この場合、この2頭は走った時期も場所もレースの格も違うわけですが、単純にベイヤー指数で比較して「102のパフォーマンスの方が上だ」と考えられます。米国ダートは基本テンから飛ばしていくので展開にバリエーションは少なく、そのためこの指数による比較はかなり参考になります。
なお時計が基準なことから短距離ほど指数は高くなりがちなので、距離別に見る必要があります。主に1600以下か1700以上かで区切るのが一般的ですね。
というわけでベイヤー指数をもとにレースレベルを語りたいと思います。(下記リンク参照)
(本年のベイヤー指数参考)(2024年は未確定のため)
(2023年の3歳馬のベイヤー指数参考)
(1993年〜2022年のベイヤー指数参考)
見て貰えば分かりますけど、クラシックディスタンスで120を超えるような数値は時代を代表する怪物のパフォーマンス、115を超えるような数値は超一流、110を越えれば世代を代表する馬のパフォーマンス、と言う風に言えると思います。
(※あくまで指数なので馬の優劣を断定するものではないです)
さてレースレベルですが、昨年デルマソトガケが2着に走ったBCクラシックの指数は勝ち馬White Abarrio(ホワイトアバリオ)が106、ソトガケは105でした。
対して今年のBCクラシックは3着フォーエバーヤングで109。指数が全てを語るわけではありませんが、私はフォーエバーヤングが去年出場していれば勝ち負けした可能性が高いと思っています。
なお勝ったSierra Leone(シエラレオーン)は112、2着Fierceness(フィアースネス)は111。この2頭は8月に行われたトラヴァーズSでも対戦しており、そこではFiercenessが1着で指数111、2着にThorpede Anna(ソーピードアンナ)がきて同じく111、Sierra Leoneは3着で109。
同じような指数を複数回出せるのは地力の証明ですし、とくに前で受けてその指数を出しているFiercenessやBCでのフォーエバーヤングのような馬は相当強いです。そういう馬が去年中東にいたかというと……。テイバは110前後の指数で走れる馬だったんですけど、サウジCでは本来の走りができずそのまま引退しました。
米国競馬が全体的に衰退しつつあるのは間違いありません。各州の予算が問題視されているし、一部のレースを除けば賞金が下がりメンツが落ちてグレードを維持できなくなっているのが現状。馬産の規模も縮小傾向にあります。競馬場も閉場していっています。ギャンブル需要はインディアンカジノやスポーツ賭博に吸われています。
ただそれでもやはり米国は世界最大で、強いです。フォーエバーヤングは日本馬では別格に強いですが、BCで彼を破った2頭はともに現役続行を予定していますし、中東には日本馬を阻んだ怪物もいるので、私は簡単には勝てないと思っています。
結論ですが、私は今年は勝てなかっただけで去年より日本のダート馬は高いレベルで勝負している、と思っています。
今は転換期
種牡馬好き、馬産好きの人間としては、今の日本競馬は転換期だと思っています。
「種牡馬戦国時代」という表現もありますが、ディープキンカメが独占していたのが異常で、ああいう種牡馬は10年20年に1頭だと思っています。血統の歴史的にリーディングを何年も独占する馬は他にもいますけど、彼らがいなくなったときというのは少し落ち込みがちなのは事実です。
日本競馬においてはキズナやエピファネイアが繁殖の質が上がりしっかりと結果を出していますし、リアルスティールやキタサンブラックやコントレイルもいます。タイトルホルダーやエフフォーリア、なによりイクイノックスも控えているので、悲観的になる必要はないと思いますね。
欧州牝系のステイヤーであるディープインパクトに米国短距離血統を配合してきたのが日本競馬のトレンドでしたが、今は血統の米国化が進みダートが強くなったことで、米国色の強い種牡馬に欧州や豪州の芝短距離血統を配合するのもトレンドになりつつあります。
ロードカナロアやモーリスのような芝短距離で海外で結果を出している内国産種牡馬の豪華世代も海外で結果を出してくれると思いますから、転換期とはいえど楽しめると思いますよ。
さらには海外で種牡馬になる日本ゆかりの血統が逆に日本に挑戦したりということもあるかもしれません。ロダンやヒトツのような馬が種牡馬になっていって、円安なこともあり海外馬主も日本のセールに来てくれたら、どんどん交流が盛んになって盛り上がるんじゃないかなと思います。
競馬が他のギャンブルと大きく異なることは、血統を中心に縦に楽しめることだと思っています。単純な勝ち負けだけでなく、馬産を楽しむという観点からも日本馬の海外挑戦を楽しんでほしいなと思っています。
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