アニメ評論が増えてほしい ~神回シリーズ番外編~

ここまで当ブログでは、私が好きなアニメの神回だと思う話数に関してシナリオや構図の面から語っていく「神回を見よう」シリーズを5本書いてきました。

直近です

このブログを書き始めようと思ったきっかけの一つが、このシリーズを書きたいという思いでした。それは自分の好きなアニメについて、好き勝手に長文で語りたかったからです。

その一方で、単なる「アニメ感想記事」にはしないようにしました。ただ面白かった、感動したと書くよりも、私自身も脚本や演出を勉強している者として、なぜ面白く感じたのかを具体的に語ることを心がけています。

自分自身も記事を書いていくなかで発見があったりしますし、何より楽しいんですよね。この構図はこういう意味があって~みたいなの。それが仮に勘違いや深読みだったとしても別に良い。

ただ、ことのほか日本のアニメにおいてそういったブログとか本とか動画って少ないんですよね。感想ブログや考察ツイートは多いのに、演出とかはあまり語られない

みんなあんまり興味ないのかなーとかも考えたのですが、そういうわけでもなさそうですよね。作画の良し悪しとかは話題になりますし、制作会社も詳しい人は詳しいですし。

私は別にアニメ評論家になったつもりでもないですしアニメ評論を自分がしているとも言いませんが、今回はこの件に関して神回を見ようシリーズの番外編として少し書いていこうかなと思います。


なぜアニメ評論は流行らないのか

アニメ評論が増えてほしいという話をするにあたって、まずは多くない原因について考えていきたいと思います。

①まずアニメ制作がよく知られていない

日本では今や映画の動員数なんてアニメ映画ばかりですし、コンテンツとかもアイドルの次にアニメ(マンガ)が強いくらいにはアニメ大国なわけで、そこはまだまだ中国にも韓国にも負けていないなと思う部分なんですよね。生産でなく消費の側が。

日本のアニメって、私は世界一だと思ってます。なんなら日本はもうアニメで勝負していくソフトパワーの国になるしか勝ち目がないんじゃないかと思うくらい。それだけ自由があって、人気がある。

ただそれだけの人気がありながら、そのアニメに関してまだまだアニメファンですら誤解が多いなというのをTwitterなんかでも感じるんですよね。アニメの派生元と言える映画に比べて、どのように作られているかがあまり知られていません。

例えば「作画が悪い」という言葉がよく使われますが、これも大きく分けて以下の三種類あると思うんですね。

①顔が良くない(キャラが可愛くない/格好良くない)
②動きがおかしい(アクションが動かない、走り方が変)
③背景がおかしい(道路がおかしい、机が長すぎる)

この場合、まずは背景の問題なのでアニメ現場的には「作画」という言葉は使わないことが多いです。キャラクターなどは【セル】という風に呼ぶのですが(詳しくは省きます)、背景は一般にセルではなく【BG】であり、どういう背景にするかはアニメーターが考えるのですが、実際にBGを描くのは背景の作業者さんです。(役職としては「美術」と呼ぶことが多いです)

そして①と②に関しては確かに「作画が悪い」で合っているのですが、そうなってしまう原因は異なるケースが珍しくないです。個別の作品ごとに事情はあるでしょうが、だいたい①の場合はスケジュールが足りていない(時間不足)②の場合は予算不足or人材不足の場合が多いです。

まず①の方から簡単に説明しますと、どんなアニメでも基本的にキャラクターデザインや総作監という役職を担当する人はめちゃくちゃに絵が上手い人で、可愛い女の子もカッコいいオッサンも描ける方なんです。だから極端な話、全てのカットでその方が顔を描けば顔は良くなるんですよ。

もちろん金額や作業負担などの事情もありますけど、現場スタッフにも委員会にも「別に顔が崩れててもいいや」なんて人はいないので、顔が良くない状態で納品しているなら「やむをえない」という判断がされているわけで、それは基本的にスケジュールが原因なんですよね。

次に②なんですけど、アニメって人が描いている以上は作り手によってクオリティには上限があって、スペシャルな映像を作ろうとしたらスペシャルな方に担当してもらうしかないわけで、そのためにはその方が納得する予算だったり、そもそも連絡して頼めるだけの関係性があるかとか、そういう部分が関わってくるわけです。

仮に私がアニメーターとして侍が百人切りしているアニメを描こうとしても、絶対に格好いいものは描けないじゃないですか。それは1億もらおうが1年もらおうが描ける気がしない。そういう感じですね。

こんな感じで、外からは実情がまだまだ分かりにくいというのがアニメ評論のハードルを高くしていると思います。

②現場の人はやりたがらない

やっぱ狭い業界ですし大半の方が実名を出して仕事しているので、自分がこれまでにやった仕事を書けば「あそこの会社の〇〇さん」みたいにすぐ分かる。

そんな状態で誰かの納品物を指して何か言おうものなら四方八方から指摘が入るわけで(特にマイナスな発言は)、となるとハイリスクでローリターンなので書かない。

アニメ見るような余裕ないよってくらい忙しい方も沢山いらっしゃるでしょうし、ましてブログを書くような時間あるなら仕事進めたいっていうのはありますよね。仮にそのブログなりYoutubeなりで収益が多少入ったとしても本業に影響が出たら意味ないですし。(ちなみに当ブログは広告入れてないので必ず赤字です)

そして業界人以外の人は感想ブログを書いている人はいても評論はかなり少ない。書く気がないという人もいるでしょうし、書けないという人もいると思います。

知識があって経験もある業界人が動画撮るなり本書くなりしてくれたら嬉しいんですが、なかなかそうはいかないですよね。それにはこのあと書く要素も大きいと思います。

③権利関係が心配

一番のネックがここなんですよね。権利。

世に大量にあるショート動画での切り抜きとかMADとかTwitterでのキャプチャ貼り付けとかもアウト寄りのグレーなので、費用がかかるため弱小アカウントをいちいち訴えたりはしませんが、業界に近い人ほどグレーのことでも避けたいものです。

アメリカには「フェアユース」って考えがあって、いわゆる映像分析とかで用いる分にはセーフとされているんですよね。まぁこれも曖昧ではあるんですが、Youtubeとかでも英語で検索してると批評動画や分析動画がいろいろ出てくる。でも日本のアニメは認められた例がなくグレーなので、やはり出しにくい。ほぼ無いと思います。

当ブログを中心に、映像や画面やセリフなどを使用する際には「引用」として引っ張ってくることが多いですが、これは著作権法では下記のように記されているようです。

第三十二条

  • 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
  • 2 国等の周知目的資料は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
ウィキソースより(著作権法 (昭和45年法律第48号)

重要なのは、その引用に正当性が認められるかという点。当ブログも含めて、許諾を取っていない以上は引用はいつ訴えられてもおかしくないもので、仮に正当と認められても「訴えられた」ということが大きな負担になるんですよね。なんなら引用についてよく知らない人から不正だと思われる可能性もありますし。

許諾を取るのって凄く難しいですし、出版社さんが「アニメの映像の本を書いたら売れるぞ」と前向きになってもらったりしない限り、なかなか実現しにくいのは仕方ないかなと考えています。

なお改めてこちらに明記しておきますが、万が一にも当ブログにて権利的なお問い合わせが届いた場合は迅速に対応致しますので、お問い合わせフォームなどからご連絡いただければと思います。

なぜアニメ評論が増えてほしいのか

なぜ増えていないかの原因について考えたので、次にアニメ評論が増えるとどういう利点があるかを書いていきます。

①アニメが楽しくなる

評論家なる存在はとやかく言われがちではありますが、アニメにも評論家がいた方が面白くなると思うんですよね。
どういう部分が面白いのか、なぜ面白いのか、どうして面白いものを作れたのか、それはインタビューなどでも語られることですが、当事者からの一方的な情報では偏りがあります。

それに全ての作品において制作者側が語ることは難しいでしょう。現に今それはなされていないわけです。(作り手が語ることに対して否定的な人も少なくありません)

そして制作者側はマイナスなことは言えません。例えば「このカットは本当はこうしたかったんですが……」なんてのは原作者やファンに失礼なので言いにくいですよね。

内情を知らない人があることないこと勝手に憶測で語るのはいかがなものかと思いはするのですが、それは評論がなくても勝手に生まれるものですし(既に流れています)、であればアニメに関する知識と豊富な視聴数のある人が言及する方があらぬ方向に飛躍してしまわないで良いと思います。

プラスのコメントはもちろん、マイナスなコメントも別の評論家から「果たしてそうだろうか」とコメントが入ったりすることで、同じ作品に対して多角的な楽しみ方もできてくると思います。これは総合的にアニメ視聴の楽しみを増幅してくれるでしょう。

②アニメ業界の情勢も可視化される

評論家やライターというのは、制作者とファンの中間に立つ存在です。

いま消費者であるファンの声というのはグッズの売れ行き、配信の視聴回数やコメント率、Twitterでの投稿数や公式アカウントのフォロワー数、BDの売れ行きやイベントの集客数、などなどのデータから語られているものと思いますが、これに関して業界内の人が公に語ることはやはり他社作品への言及を含むためにはばかられるところです。

事前の想定に反した数字となった作品は大なり小なりあるわけで、そこについて言及し分析するための叩き台となる記事がもっと書かれていても良いのに、映画に比べるとずっと少ない。

ビジネスなので当然ですが、作品によって予算は違います。ある作品では本気を出してある作品では手を抜くなんてことはないですが、しかし作品によって予算が異なるのは現実です。そのなかで良いものを作ろうとしているわけですよね。

業界の歴史を語る人はいますが、多くの人には知られていない(私も詳しくは知りません)。そして現在進行形でそれぞれの会社の情勢を語るような記事は見つかりません。

アニメのスタッフについて考えるとき、会社も大事ですがアニメ制作Pというのが非常に大きいです。豪華なスタッフがそろうとき、基本的にそれを集めるのは制作Pと監督の人脈だからです。このアニメ制作Pは中小は一人ですが大手には複数人います。

いわば制作チームのチームリーダーであり現場責任者的な立場ですが、時として監督やキャラクターデザインを呼んでくるのもアニメ制作Pですし、Pの実力次第でクオリティって全然変わるんですよね。まさにアニメの根から葉まで関わるのがプロデューサー。

どの会社がやるかよりプロデューサーが誰かの方が大切で、新しい会社も社長がどこのプロデューサーだったかで分かることが多いですし、優秀なプロデューサーのチームからは良い作品も生まれやすい。

そういう業界の流れとかまで抑えると、クレジットを見ていても楽しくなってくるんですよね。あの人が参加してるなとか、この制作さん転職したのかなとか。

業界の情勢を可視化してクレジットの解読と整理もする、ただ映像の良し悪しを語る以外にも評論の意義はあるように思います。

③品質向上の効果も期待される

評論家が批判的な内容を書くことで作品の品質が上がる、とは言いません。だいたい外野に言われるようなことは作り手も心当たりがあることですしね。それに演出はどこまでいっても好みでしかないですから。(定型はありますが、正解はないです)

ただ、映像演出に関しての議論がなされること、それを業界を目指している人や業界内で勉強しようとしている人が評論参加したり目にすることには効果があると思っています。

評論家同士で議論してみたり、評論家のコメントに対する反響が議論を生んで、それが作品や演出に対しての反応の可視化につながりますし、その効果に関しての是非も生まれる。こういうものの連続でいろいろな技法は生まれたり磨かれていくものだと思います。

「わざわざ好きじゃないと声に出す必要などない」という意見もあるかもしれませんが、それには私は同意しません。世に出す以上は「つまらない」と言われる覚悟も責任も伴うものでしょう。それがお金をもらって仕事をするということだと思います。

作業者本人への言及ではなく、あくまで作品に対しての言及。それであれば私はむしろ健全な産業になっていくと思います。

アニメ評論を見て業界に興味を持ったり親近感を感じてもらえるかもですしね。そういう意味でもやはり品質向上に一定の効果が見込めると思います。

最後に:アニメは巨大なビジネス

よく悪者扱いされる「製作委員会」ですが、なぜあんなものが必要かって、それだけアニメ制作には膨大なお金がかかるからなんですよね。映画くらいかかる。

例えば日本のドラマって、1時間で3000万とかって言われますよね。それも年々安くなっているのは想像に難くない。

対して海外の(日本で放送・配信されているような有名作品の)ドラマは予算が全然上と言われます。予算が大きいから良いものが作れる。お金ある方が人数も時間も舞台もリッチになりますから。

そこでいうと日本のアニメっていうのは、昔は格安で1500万とか2000万とか「1クール3億」とかよく言われてましたけど、今はもう賃金や単価の引き上げに円安が重なったりで、3000万~4000万は必要になる。

アニメは30分枠ですから、単純計算でテレビドラマの倍かかるんですよね。CMとかOPとかEDを抜いたら20分くらいしかないので、仮に4000万だったら1分の映像に200万。まぁこれ凄く大雑把な話なので「そんなにかかってない」とか「もっとかかってる」と業界の方に言われそうですが。

ただまぁ、こんだけクリエイターさんから「報酬が安すぎる」と言われている今でさえ、20分ほどの映像に数千万円かかっているわけですね。そんなアニメが毎週30本とか40本とか放送されている。とてつもないことですよ。

こんなにも勢いがある産業ながら業界としてはまだまだベンチャー気質が強くて、成熟途上なんですよね。海外人気に産業の大きさもあり最近は大手を中心にちゃんとするようになってきていますが、未成熟な部分も多いです。

そんな業界を育てていくためにも、やはりアニメ評論家という第三勢力の有識者という存在は、私は必要であると思います。

アニメが好きな人、ぜひアニメ評論をしてみてください。