これまでインプットをおざなりにして生きてきたことを反省し、アニメや映画やラノベを見てブログに感想と学びを書いていこうと思い立ちました。
そうして始まった【感想と学び】シリーズの1作目、ラノベ【忍ばないとヤバい!】を書いていきます。
※選出基準:本屋で平積みされていた新刊の中で現代ラブコメの作品だったため。
ネタバレもちろんあります。作品の説明は最低限にしかしません。
簡単な紹介
高2男子の主人公・忍(しのぶ)は両親に捨てられた孤児で、政府系の忍者組織によって育てられていた。そして組織に正式に所属するための試験として「忍者であることをバレないまま卒業する」ことを目指している。
孤児なことや幼少期から鍛えられていたこともあって友達もいなかった忍だが、転校生のメインヒロイン・雪(ゆき)の登場で大きく変わる。家出してきたと語る彼女は忍が広い家に親もなく1人で(厳密には一人ではないが)暮らしていることを知って同棲を願い出る。雪は実は忍者、それも忍の所属する政府系の組織と戦っている犯罪組織の忍者であった。見逃せない忍は師匠の判断のもと「監視のため」として同棲することになる。
忍と共に試験を受けている同級生の茜(あかね)は、雪と並んで巨乳でスタイルが良い美少女。一方で茜の双子の弟である葵(あおい)は美青年だ。やがて四人は仲良くなり、その過程で雪の能力が並でないことも判明する。実は雪は敵対する組織の数百年前の創設者と同等の能力を持ち得るほどの才能の持ち主であった。
雪が家出していた理由は、その才能がゆえに政略結婚させようとする動きから逃れるためであった。しかし雪を連れ戻しにきた追手に周りの人に危害が及ぶことをほのめかされ、雪は誰かが死ぬくらいならと帰ろうとする。そんな雪を茜と葵と共に忍は引き留め、圧倒的な力で追手も撃退し、ひとまず平和を取り戻せたのであった。
忍者という設定
忍者という設定は、実に便利なものだと思うようになりました。
似たものとして「陰陽師」や「巫女」がありますが、それらよりはファンタジー色が薄いですよね。一方で「公安」や「特殊部隊」ほどリアルじゃない。
陰陽師や巫女の場合、しばしば神が関わってくるので設定が複雑になります。また公安や特殊部隊の場合は戦う相手がテロリストとかになりがちで、そうなると相手の思想やバックボーンを描く必要が生まれてしまうかもしれません。
忍者であれば戦う相手は得てして忍者なのであり、敵対している忍者組織があることに違和感はありません。甲賀忍者や伊賀忍者といったように忍者は忍者と戦うものというイメージがあるからです。戦う理由は雑でもよくなりますし、相手と意思疎通をはかることもできます。
それから戦う描写において、忍者であれば忍術を使えます。一方で忍者なら身体能力も備えています。どちらの方向にも使えるので便利な設定だなと。
イメージが浸透していて設定を組み立てたり説明する必要が薄い割には解釈も自由度も広いんですね。
キャラクターと秘密
本作に登場する三人の女性(葵は実は女性です)はそれぞれ嘘をついています。
雪は実は忍者であり、実は凄い才能の持ち主でした。茜は実は忍よりも年上であり、葵は実は男子でなく女子でした。そして茜と葵は忍を殺す任務も与えられていました。
忍は彼女達の嘘に全く気付きませんし、気付いてからも特に引きずりません。まして彼女たちの嘘を咎めることは全くしません。そこが作者の書きたかったことだったんでしょうか。忍者という設定もそこからきたのでしょうか。
クノイチのついた嘘を、黙って許してあげる人間にはきっと良い事があるでしょう。
「忍ばないとヤバい!」あとがきより
ワンピースファンの私は「女の嘘は許すのが男だ」というW7編のサンジの台詞が真っ先に思い浮かぶわけですが、そうでなくても昔から「女性は秘密を抱えていて男に隠している。しかし男性は仮にそれによって不利益を被っても赦してあげるのが優しくて格好いい」という価値観があるように思います。
こういった男女観は古いものとして淘汰されていくのかもしれませんが、しかし現状まだ機能していますし根付いてもいると思います。この作品にもそういった部分があって、形だけを見れば忍は都合よく雪に寄生され、茜と葵には知らずのうちに命を狙われていたわけです。
女性が嘘をついているというのは、それは女性の方が男性に比べて社会的にも物理的にも劣位にあることに対しての自己防衛の側面はあったでしょうし、秘密を抱えていた方がミステリアスで魅力的に見えるという部分もあったと思います。
赦すのが格好いいというのは、やはり男性が(この場合は忍が)圧倒的に優位にあるからですね。要は強者の余裕を見せるべきだという話で、忍が最強だからシナリオが許されているというか。忍は男性である悟にも嘘をつかれて赦していますが、そこも同じですしね。
だから男性だから女性だからはあくまで結果そうなってきたということで、重要なのは上には上の、下には下の特性と役割があるということですね。キャラクター間の上下関係を意識することが重要だと感じました。許される許されないのヘイト管理にも繋がっていると思います。
率直な感想
正直なところ、終盤まで淡々と読み進めてしまいました。それはきっとヒロインとのやりとり、関係や心情の変化がもう少し欲しいということだったのかもしれません。少し薄味に感じてしまったんですよね。
せっかく前半を日常に割いているのですから、たとえば同棲するなら服を一緒に買いに行ってほしかったです。雪の可愛さに見惚れてしまうシーンがあっても良いですし、下着を見て恥ずかしくなってもいいですし、或いはそれらに無頓着な忍というコメディにもできたり。
あとは同棲していることに対する揶揄いがもう少し欲しかったかもしれません。茜による誤解はありましたが、それはすぐに解けます。クラスメイトからは羨ましがられたりするだけで反応が薄く、忍に友達がいなくてクラス全員モブなので難しいかもしれませんが、そこは思春期の男女が同棲しているのですから揶揄われて慌てて否定するようなむず痒いシーンもあって良いのではと。ありきたりですけど。
要はヒロインの魅力が薄味になってしまっていないかという意見で、同棲しているからこそ一緒に寝るシーンもありますが、全くエッチな雰囲気にはなりませんし、翌朝に忍に乗りかかって起こすのは雪ではなく師匠のマオです。そこはちょっとガッカリ……というか残念でした。
まぁそういった部分はもし続編が出るならそちらで、ということでしょうか。
最後におおっと思った部分を書いて終わります。
最初に忍が雪は実は忍者なんじゃないかと疑いながらも結局は雪から明かされるまで雪を一般人であると思い込んでいるというコメディがあり、それが忍が茜と葵の嘘に全く気付かないことを成り立たせていて、読者に対しての分かりやすいヒントになっているところは面白いと思いました。
うーん、読後感って久々に書くので難しいですね。考えを言語化することも、構成を整理することも。やっていくうちに慣れていくものと信じて、感想を書くのは鮮度重視で進めていきたいと思います。
コメント