これまでインプットをおざなりにして生きてきたことを反省し、アニメや映画やラノベを見てブログに感想と学びを書いていこうと思い立ちました。
そうして始まった【感想と学び】シリーズの2作目、ラノベ【陰キャぼっちは決めつけたい】を書いていきます。
ネタバレもちろんあります。作品の説明は最低限にしかしません。
簡単な紹介
転校によって陰キャになった主人公・雨原と、イジメによって陰キャになった幼馴染のヒロイン・織羽は高校で再会する。陽キャに復讐したいと宣言する織羽に、かつてお互いを助け合うと約束したにも関わらず彼女が苦しい時に力になれなかったことを悔いた雨原は、復讐に協力すると告げる。
一般学生であるジャズ部の事件を解決する過程で「学園のお悩みを解決して陽キャの闇を暴くことで貶める」という方法に至った二人は、次に陽キャ集団であるバンドの失物を発見し、炎上疑惑の動画の真相を解明し、最後には陽キャの裏垢を見つけて問題を暴く。
ジャズ部もバンドも円満に解決し、動画の中身も炎上するようなものではなく、自ら闇を暴いた裏垢も晒された方でなく晒した側が苦しむ結末を迎えた。陽キャを貶めるという織羽の目的は最後にようやく一定の達成を得たものの、基本的に織羽のやっていることは良い方向に回る。
ともに謎解きを進めていくにつれ、雨原は自らの卑屈さが織羽と接している時には発現しないことに気づき、彼女と対等な関係になりたいという恋心を自覚する。
一時は雨原が謎解きをする部活を立ち上げようとして部活に嫌な思い出のある織羽と喧嘩にもなるが、最終的には謎解きをしていくうえで仲良くなった陽翔や海風と部活でなく生徒会の外周を結成する。
そうして彼らの青春が始まっていった。
常識人だが卑屈な雨原と陽キャになれなかった偏見の強い織羽
雨原は成績優秀で、カースト上位になれる人物です。しかし他人に迷惑をかけたくないと卑屈になります。ベクトルとしては上から下に向いています。対して織羽は陽キャになりたいのになれず、それによって捻くれた陰キャです。下の立場から上の立場に行きたいと願っていて、下から上にベクトルが向いています。
二人とも陰キャでありコミュ障でありますが、そのタイプが対照的なことは効果的だったなと思いました。
織羽が陽キャに復讐したいって言っているのは、完全に八つ当たりなんですよね。それを本人も認めていて、だから織羽がキツイことを言っても可愛らしく思えます。そして雨原は陽キャになれるステータスを持っているわけですから、織羽よりは優位にあるので織羽の言葉も赦せると。
もし二人とも卑屈型の陰キャであれば、じめじめとした作品になっていたでしょう。対して二人とも捻くれていれば毒の強い作品になっていたかと思います。織羽の毒と雨原の返しが漫才のように作品を面白くしていますが、読者がどちらの側にも立てるようにしておくのが大事ですよね。それでいて二人とも陰キャであるから繋がりに違和感はない。それを成立させているのは二人が異なる陰キャだったからだと。
ちょっと上手く言葉にできないんですが……。殴り書き。
陽翔という陽キャ
陽翔って最初はTHE・創作物に出てくる陽キャって感じの登場の仕方をしてきます。セリフだけでそういうキャラなんだなと分かるくらい露骨な”陽キャ”。少し過剰に「こんな陽キャいないでしょ(笑)」ってくらいのテンションで入ることで、あえて少し浮かせていました。
その浮いた存在である陽翔と交流を重ねて馴染んでいくことで、この二人が溶け込んでいることを表現します。あえて主人公との距離を最初に提示して、その距離を縮めていくことで、主人公の座標が動いていることを示す。相対的な表現ですけど陽翔は変わらないキャラですから十分なんですよね。
もう一つ、織羽の毒を優位にあるから雨原は赦せると書きましたが、雨原より優位にある陽翔は織羽と雨原のコミュ障をまとめて許容できます。織羽の毒を聞いても陽翔は「面白い」ですからね。結構偏見に満ちた酷いこと言われているのに笑って流せるのは、やはりキャラのポジションに上下があるからなんですね。
約束の効果
かつて交わした約束が、雨原が織羽を守りたいと思う動機になっています。前に書いたように守るというのは守る側と守られる側があり、守る側が優位に立ち守られる側が劣位に立つという上下の関係があると考えています。
ですから雨原が織羽を守りたいと思っているのは、現在の成績という点では学年一位すなわち上位にあることから順行です。織羽が守られることも順行です。
ただしかつて織羽に助けられた過去があるということ、そうした約束を交わしていることが守りたいという考えを双方向にしていて、そのため「守ってあげる」感は出ないで済んでいます。そして同時に雨原の動機に不純さ、下心を感じさせずにも済んでいます。
段階的な構成
二人で、一般的な学生であるジャズ研と将棋部の問題を推理します。
謎解きという手段を見つけ、自信をつけた二人は次に陽キャなバンドの推理をします。
次に陽翔という陽キャを味方にして、コミュ力を手にしてストリートダンスの動画を推理します。
そして最後には海風という生徒会の権力を味方にして推理を行います。
段階的に問題のスケールは大きくなっており、問題の加害性も上がっており、味方の戦力や手札も強まっています。
当たり前と言えばそれまでですが、段階的な構成を自然な形に落とし込むのは大事だと思いますし、私はいつも構成に苦戦しているので勉強になりました。
素直な感想
面白かったです。
面白かったというか、楽しかったと言った方が近いかもしれません。
漫才のような掛け合いはまさにラノベという感じで、何度もふふっとなりました。特に好きなのは、将棋部がジャズに興味があるわけないという偏見に満ちた織羽の主張で「管弦楽より金銀角でしょ」ですね。リズムよくて、割と序盤に出てくる言葉ですが読み終わって真っ先に浮かびました。私ってリズムの良い言葉が好きなのかもしれません。
続編があるかは分かりませんが、もしあるなら織羽が雨原を男性として意識するようなところも是非見てみたいですね。というのも、織羽は中盤で「私がラブコメのヒロインだったら今頃あめすけ(雨原のあだ名)に惚れているでしょうね」と発言しており、要するにラブコメのようにちょろくはないぞと宣言しているんです。
でもそう言われたら彼女が恋しているシーンを見たくなるのが読者というものですよ。これはあえて突き放すことにより期待させるという手法で、私はおそらく続編が発売されたら買いに行きます。
とにかく読んでいて楽しかったですし、満足感が高かったです。こういうテンポの会話って憧れるんですけど、なかなか書くのが難しいんですよね。私が苦手にしているだけかもしれませんが……。
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