今改めて思うミスワキというロマン

現代日本競馬において、圧倒的な存在感を誇る血統はやはりSunday Silence(サンデーサイレンス)でしょう。

ではその次はといえば、それはキングカメハメハということになろうかと思われます。

キングカメハメハ、父Kingmambo(キングマンボ)
父父Mr.Prospector(ミスタープロスペクター)
父母Miesque(ミエスク)

リアルスティールやラヴズオンリーユーでも証明されたMiesqueというスピード。
米国が誇る軽快なスピード血統Mr.Prospectorとの交わり。

そんなKingmamboを日本競馬に知らしめたのは、今なおその強さが語られる怪鳥エルコンドルパサーでした。

注目したいのは、エルコンドルパサーとほぼ同時期に活躍した稀代の快速馬。
夢を乗せて走り、夢となってしまった悲劇の名馬。サイレンススズカ。

そのスピードの源泉は当然ながら父Sunday Silenceによるところが大きいでしょうが、異常なまでのスピードの持続力は、この記事の主役でもある母父の血統によるところが大きいのではないかと考えられています。

それが、Miswaki(ミスワキ)です。

日本競馬は同時期に活躍したMr.Prospectorの血統のうち、Kingmamboを選びました。
Miswakiからもマーベラスクラウンのような馬が輩出されていますが、結果としてKingmamboの影響がMiswakiのそれを遥かに上回っています。

しかしKingmamboの支配が進んできたからこそ、いま一度改めてMiswakiを考えるべき時期が来ているのではないでしょうか。

というわけで今回はMiswakiについて、書いていきたいと思います。


ミスプロの異端児ミスワキ

Mr.Prospectorといえば米国の早熟な短距離血統というイメージがあると思います。
実際、それは外れていません。仕上がりは早めで距離は短めです。
Miswakiも自身の成績はそれに近いところがあります。

MiswakiはMr.Prospectorの3世代目。
誕生当時まだMr.Prospectorはそこまで注目されていませんでした。

フランスでデビューして3戦目の2歳G1で最初で最後の重賞勝利。
米国に移籍して芝とダートで走りましたが、重賞には届かず。
通算成績は13戦して6-4-1-2。主な勝ち鞍サラマンドル賞(ロンシャンT1400良)。

しかしMiswakiは種牡馬になって、現役時代からは考えられないほどの結果を残すことになります。

Miswakiの血統を見てみましょう。
父Mr.Prospector
母父Buckpasser(バックパサー)
母母父Princequillo(プリンスキロ)

父Mr.Prospectorは上述したように仕上がり早めの短距離馬。

母父BuckpasserはDr.Fager(ドクターファーガー)やDamascus(ダマスカス)らとも戦った米国の名馬。
早くから勝ち続け、距離は2000でしょうか。

母母父Princequilloはスタミナで知られる種牡馬。
スピードで有名なNasrullah(ナスルーラ)との組み合わせによるナスキロ配合は血統の話になると必ずと言っていいほど出てくる話題です。Miswakiも母母母父がNasrullahなのでナスキロを含有していますね。
この時代は大量に生産されていたんでしょう。日本で言えばディープインパクト×Storm Cat(ストームキャット)みたいなものでしょうか。

Miswakiが異端の種牡馬と言われる理由は、父Mr.Prospectorの産駒に早めで短めの馬が多い中で、Miswakiは遅めで長い馬を生んだから。
それは血統的な解釈としては、母母父Princequilloが出ているのではないかと思います。

Miswakiの代表産駒を3頭紹介しましょう。

まずはBlack Tie Affair(ブラックタイアフェアー)
長く戦って4歳夏から勢いが付き始め、5歳時にはUnbridled(アンブライドルド)らを下してBCクラシックを制し年度代表馬にも選出されました。45戦目での勝利です。

それからマーベラスクラウン
4歳秋に京都大賞典とジャパンCを連勝したセン馬です。どちらも2000mを超える距離ですね。

そして次章で紹介するのが、Urban Sea(アーバンシー)

欧州を飲み込むアーバンシー

Urban Seaはフランスで活躍した牝馬で、4歳秋に凱旋門賞を勝利。
競走馬としても名牝ですが、それ以上に母としての活躍が目立っています。

産駒にはGalileo(ガリレオ)やSea The Stars(シーザスターズ)など。
いずれも適性距離は2000m前後ないしそれより長い距離です。

GalileoもSea The Starsもともに凱旋門賞を勝利して母子制覇を達成しており、またGalileo産駒のFrankel(フランケル)の子供であるAlpinista(アルピニスタ)も凱旋門賞を制覇しています。

これらの事柄に対して、Urban Seaの母Allegretta(アレグレッタ)が注目されました。
それはTorquator Tasso(トルカータータッソ)の活躍を血統から解釈するためでもありました。
(※Torquator Tassoは4代母がAllegretta)

ただ同じぐらい注目するべきは、Miswakiでしょう。
Miswakiもまた、凱旋門血統です。

言うまでもなくUrban Seaは父がMiswaki。

GalileoとSea The Starsも母がUrban Seaなので母父Miswakiとなります。
Miswakiは母方に持っているBackpasserやPrincequilloなどの血統がいずれも母方に入ってよいとされる種牡馬で、Miswaki自身にも種牡馬として以上に母方に入ったときの頼もしさがありま
最初に挙げたサイレンススズカも母父Miswakiですしね。

母父Miswakiと言えばDaylami(デイラミ)とその半弟Dalakhani(ダラカニ)もそうです。
Dalakhaniは凱旋門賞を勝利していますね。

ほかにも、上で上げたFrankel産駒のAlpinistaはMiswakiの4×4というクロスを持っています。
(※母父Hernando(エルナンド)がその母父Miswaki。なおHernandoは凱旋門賞2着)
Alpinistaも4歳ごろから本格化した遅咲きの馬でした。

Miswakiは高いスピードを維持させることができる血統だと言えます。
サイレンススズカもそういう走りをしていますよね。
高い水準でスピードを維持させられる。スピードの下限が高いので、凱旋門賞でも走れる。

重たい馬場が得意だというわけではなく、重たい馬場でも走れるということなんですね。
タフなのではなく、軽いと表現した方がいい。
Mr.ProspectorやBackpasserのスピードを2000mや2400mで扱えるというところがMiswakiの強みであり、であればこそ欧州でも日本でも米国でも活躍馬を輩出できたのでした。

目をつけた”ハットマン”矢作

こうしたMiswakiの持つロマンを、日本が世界に誇る名調教師・矢作が見逃すわけもありませんでした。

2024年3月現在で大きな期待を集めているシンエンペラーは凱旋門賞馬Sottsass(ソットサス)の半弟ですが、両馬はMiswakiの4・4のクロスを抱えています。
正確には両馬の母Starlet’s Sister(スターレッツシスター)がMiswakiの3×3というクロス持ちです。

Sottsassは確かに不良馬場の凱旋門賞を勝っていますが、仏ダービーではレコードの時計で勝利しており、決して重い馬場でないと勝てない馬ではありません。
それは上述したAlpinistaもそうです。
Miswakiを持っているから重い馬場でもスピードを維持できて相対的に強いというだけで、重い馬場でなくても高いスピードを発揮できるんですよ。

なので、シンエンペラーに対して「不良馬場で勝った凱旋門賞馬の弟」という認識だけで語ることは私はいかがなものかと思います。

Miswakiのクロスを持ち、そのスピードの維持を武器にした馬として、同じく矢作厩舎のモズアスコットも忘れてはいけません。

4歳時に連闘で安田記念を勝利し、6歳時にダート転向して根岸SとフェブラリーSを連勝するという芝ダート両G1制覇を達成した馬です。
このモズアスコットは父Frankelで母母父Miswaki、したがってMiswakiの4×3という血統でした。

モズアスコットがダート転向を成功させた要因として母父Hennessy(ヘネシー)を語る人がいるかもしれませんが、個人的にはそれは懐疑的です。
(※HennessyはStorm Cat産駒にしてHenny Hughes(ヘニーヒューズ)の父)

モズアスコットがダートで好走したのは府中と盛岡で、これはダートの中だとスピードが乗りやすい馬場とコースです。
もしHennessyの力でダートをこなせているのなら、他の馬場でももっと走れていると思います。

ちなみにソダシやガイアフォースも府中ならダートを走れていますね。
これもクロフネがスピードの維持を得意とした馬だからで、不良馬場の凱旋門賞で健闘したクロノジェネシスなんかも母父がクロフネです。

そんなモズアスコットですが、2024年が種牡馬として産駒デビュー年。
どこまでの繁殖を集めているか、質と量ともに私はまだチェックできていませんが、個性派が生まれてくれればと思います。活躍に注目です。

今後に注目

このブログを書いている日に行われた弥生賞では、シンエンペラーは2着でした。

この馬はまだ気性で幼いところを見せますが、素質は本当に高いですね。

馬体を見て感動しました。
ムキムキで力強いのにスラっとしているというか、気品を感じさせるというか。
凱旋門賞馬の全弟ですからね。それがパドックであの距離で見られるというのはありがたい話です。

彼は父Siyouni(シユーニ)もNureyev(ヌレイエフ)系Pivotal(ピヴォタル)×Danehill(デインヒル)ですし、高いスピードを持っています。
それをMiswakiのクロスを持った母によって維持できているとすれば、成長力もあるでしょうし距離延長も歓迎でしょう。そして重い馬場でも軽い馬場でも勝ち負けできます。

彼が大成してG1を取り、海外にも打って出て、そして種牡馬入りしてくれることを願っています。

それでは今回はこの辺で。

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