世の中には多くのアニメがあり、多くの物語があります。
そのなかにおいて特に脚本や演出や作画のクオリティが光る神回を見ようというのが、このシリーズです。
アニメのプレゼンではなくココが良い!という感想を書くのが主目的なので、ネタバレは含みますがシナリオの解説はしません。この記事を開く時点で未視聴の人はほぼいないだろうということで世界観やキャラの説明もしません。仮にそういう方がいたら先に見るかWikiとかを見ながら読んでください。
※なお演出の説明などのために本編シーンの一部を引用しております。著作権には最大限の配慮をしているつもりですが、ご指摘あれば削除します。
ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 1期2話
今回紹介するのは、かつて覇権を取ったこともある人気コンテンツ「ラブライブ!」の中でも私が愛してやまない「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」のアニメ1期2話。
この回が神回であるかどうかは評価が割れるかもしれません。私の肌感覚では、この「アニガサキ」と呼ばれる作品において最も評価されているのは1期6話。あと話題なのは1期1話、1期11話あたりではないかなと思います。2期1話とかもですかね。2期なら5話も私は好きです。
もちろんどの回も好きですし、特に1期6話なんかは評価されるだけの理由があるわけですが(いつか記事にするかもしれません)、個人的に最も語りたいのは1期の2話なんですね。作画、演出、そして脚本が素晴らしいんです。
脚本の丁寧さ、という部分に注目しながら、この神回について書いていきたいと思います。
かすみとせつ菜の衝突
冒頭、いきなり旧同好会の衝突が回想で描かれます。
光と影の演出です。同好会は影で覆われています。影は暗く、後ろ向きだという表現です。
この衝突はかすみとせつ菜のスクールアイドル活動に関しての方針の違いが原因でした。
この話数はこの二人の対立を中心に進んでいきます。
孤立するかすみ
かすみが同好会のメンバー達と連絡が取れない描写が入ります。エマにも彼方にも連絡がつかないと嘆いていますし、しずくは部長とともに演劇部へ向かってしまいます。
一方かすみはしずくとの会話で「(せつ菜に連絡を)するわけないじゃん」と言っています。連絡が取れていないと言っても、連絡を拒絶しているのはせつ菜から他の部員と、かすみからせつ菜だけなんです。事実、2話後半ではかすみ以外の3人は集まってせつ菜の元に向かっています。
せつ菜以外の4人はお互いに連絡を取り合おうとしていることから、かすみの孤立を描きながら他の部員が薄情者に見えないようにしています。かすみはしずくを薄情者と言っていますが、そうでないのは彼方達と集合していることから2話終盤でわかります。その話数の中で疑いを晴らす、丁寧なヘイト処理です。
画像のシーンはしずくが演劇部に向かい、エマとも彼方とも連絡がつかないとかすみが嘆いているところです。影に囲まれていて、周りには誰もいません。これはかすみの孤立を表現しています。しかし肝心のかすみは日向にいます。
ここでの日向は明るく前向きで未来を感じさせる表現です。「かわいい溢れるかすみんワンダーランドを作っちゃいますよ!」。かすみは孤立していても前向きで、同好会を守って盛り上げようとしています。それは、かすみはかすみだけでスクールアイドルになれるからなんです。
同好会を取り返そうとするかすみ、せつ菜を取り返そうとするエマ達
同好会が廃部になったことをうけて、廃部にしたせつ菜本人以外の4人の行動は二手に別れました。
かすみは生徒会室に忍び込んでプレートを盗み、同好会を再建します。対してエマ、彼方、しずくの3人は果林の協力も得て中川菜々(優木せつ菜)のもとに向かいます。かすみは同好会を取り返し、エマ達はせつ菜を取り返そうとしたのです。
侑と歩夢とともに公園で同好会を再建するかすみ。プレートがあれば部室になり、部室があれば同好会になる。かすみはかすみだけでスクールアイドルになれるからこそです。
今作のスクールアイドル達は基本的にソロ活動です。それぞれが自分の目標とコンセプトを持っています。エマの場合は『みんなの心をぽかぽかにする』、彼方の場合は『みんなとすやぴしたい』とかです。この二人は一体型のアイドルとでも言えばいいのか、自分もファンも含めた世界観を作り上げて共有するというタイプです。だからエマは子供達と手を繋いで歌いますし、彼方はファンと一緒に寝ます。
ですのでエマと彼方はその世界観からの離脱は見逃せません。せつ菜を救えないままにスクールアイドルとしての活動を続けることはできない。だからせつ菜抜きではスクールアイドルになれないんです。
対してかすみは、ファンに【かわいい】かすみを見せるというものです。かすみの【かわいい】はかすみの中で完結しているのでせつ菜を必要としません。だから、かすみはかすみだけでスクールアイドルになれます。
スクールアイドルになった経緯も関わっています。虹ヶ咲のアイドルたちがスクールアイドル同好会に入った理由やきっかけは、大半のキャラがせつ菜を起点としています。
歩夢と侑は1話のせつ菜のライブを見たからですし、エマと彼方としずくはせつ菜に惹かれて同好会に入部していますし、璃奈と愛は3話のせつ菜のライブを見て入部を決意します。果林もスクールアイドルを意識したのは3話のせつ菜のライブを見たからだという描写があります。
ただ、かすみは違います。スクフェス組である転校生(という設定はぼやけていますが)の3人と違い、かすみはスクスタのオリジナルキャラです。せつ菜に惹かれたわけでなく【かわいい】を表現するためにスクールアイドルを始めています。言わば【かわいい】の求道者です。ここでもかすみはせつ菜を必要としないことが分かります。
しずくはというと、この時点ではどっちつかずになっています。何をしたいか本人も分かっていません。演劇部に行ってしまう描写はその意味も含まれています。主体的にせつ菜を取り返すでも同好会を取り返すでもありませんでした。自分が定まってないしずくの不安定な状態は8話に繋がっています。
侑&歩夢との邂逅
侑と歩夢との出会いから話は動きます。
どうすればスクールアイドルになれるのか思案している二人の肩をかすみが掴みます。せつ菜がスクールアイドルとしての入り口の役目を果たしているのに対して、かすみは導き手です。スクールアイドルとしての道を案内していきます。これは後の回でもホワイトボードで講義するシーンなどで表現されています。
侑と歩夢に下手からすり寄って……
割り込みます。
出会いのシーンもそうですが、かすみは侑と歩夢の関係に割り込んでくる存在です。歩夢だけの侑ではなくなり、侑だけの歩夢でもなくなります。
上手と下手の演出もあります。一応補足すると上手は向かって右側で下手は左側です。基本的な理解としては上手の方が上です。強く、上位の存在です。バトルシーンとかだと顕著ですね。
ここではかすみは下手から近付いて、割り込むことで歩夢を下手に追いやっています。これによってかすみの方が侑に近くなりました。侑と引き裂かれて下手に追いやられた歩夢というのは後半の構成に繋がっています。
かすみのスクールアイドル像に対する侑と歩夢の反応
3人はさっそく公園で同好会を再建します。
まずプレートを盗んだことをかすみは自白しています。だから学校内では活動できないと。セリフで説明することで視聴者はもちろん歩夢と侑にも理解させています。のちに同好会の仲間となるせつ菜に対して歩夢と侑の二人が理不尽な印象を持たないようにしています。
これがないと、せつ菜は意地悪な生徒会長だったけどアイドルとして好きだから許す、という形になってしまいます。善悪の判断とその基準を視聴者だけでなく作中の登場人物の中にも設けることは大切です。もちろんせつ菜の悪者としての印象を薄めるためでもあります。
これもまた脚本による丁寧なヘイト処理です。歩夢と侑の反応でコメディに落とし込んでいます。会話の中で自然と流れていき諄さがありません。諄い説明は視聴者に言い訳だと思われるので注意ですね。
せつ菜に関しては全員の名前を覚えているという描写もあります。アニメではよくあることですが、有能であるという表現です。これもヘイト処理に一役買っています。せつ菜が無能ではないということを提示された視聴者は、彼女にも何かしらの事情や考えがあったのではと思います。せつ菜がかすみを理不尽に追い詰めている悪者なのではないかという不安に週を跨がせない、丁寧なヘイト処理です。
かすみの見せるスクールアイドル像に対して、歩夢は困惑してしまいます。歩夢の思っていた【かわいい】とかすみの【かわいい】は違ったためです。視聴者は1話で既に歩夢の【かわいい】を見ているので、歩夢の困惑は理解できます。それは侑も同じ。だから侑からは歩夢に何も言いません。
【かわいい】に多様性があるうえで、歩夢はかすみの【かわいい】に困惑し、かすみは歩夢に「不合格ですね」と告げています。これは冒頭の回想でせつ菜の【大好き】に反発したかすみと、そのかすみに「そんなパフォーマンスではファンのみんなに大好きな気持ちは届きませんよ!」と語ったせつ菜との対比になっています。つまり歩夢はかすみの代理人、かすみはせつ菜の代理人となっているのです。
では侑はどうかと言うと、侑は第三者。どちらも肯定する立場です。歩夢の【かわいい】もかすみの【かわいい】も、このシーンで言及しますがせつ菜の格好良さにも肯定を示しています。侑が肯定してくれるから自分の表現したいものが違っても自信をもってパフォーマンスできる。侑は視聴者の代理人なのです。
これは侑の存在意義を示します。アイドルアニメにおけるアイドルでない存在には明確かつ強い存在意義が必要です。なぜならアイドルが画面に映る時間を割いて出演するからです。スクスタでのあなたに比べると侑は存在感を薄めていますが、それでも確かな存在意義があるから邪魔になりませんでした。
演出の話をしましょう。まずこの場面で3人は同じ方向を向いています。それも光が差す方です。前述したように光は明るい未来を意味するので、今後どうするかを3人で考えているという表現です。
座る位置も大切です。歩夢とかすみは下段、侑だけ上段に腰掛けています。前述した歩夢と侑の間にいるかすみを提示しながら、スクールアイドルではない侑がスクールアイドルとして頑張っている歩夢とかすみを後ろから見守る構図になっています。
また侑の方がかすみより上手で上に位置します。侑はかすみよりも上位の存在となります。侑はかすみを助けるキャラクターだからですね。それはこの後かすみが噴水前で抱きつくことからも分かります。
問題を自覚して反省するかすみ
自分はせつ菜と同じことをしていると気がついたかすみ。自分で気づくのが素晴らしいですよね。田中仁さんの脚本はキャラの気づきを大切にしている印象があります。それがキャラに対する不快感のなさ、いい意味での視聴者への裏切りに繋がっていると思います。キャラが自分で考えていることを視聴者に感じさせるのが良いですね。Go!プリンセスプリキュアのロミオとジュリエット回もそうでした。
この前に侑が「でもせつ菜ちゃんはかわいいっていうよりカッコいいって感じだったな」と言っています。かすみの「(かわいいは)アイドルの基本ですから」とは異なる考えです。「そうかな?」とは言いません。自分はかすみと考えが違うという主張をするのではなく疑問を思ったままに口にしているのです。これが絶妙で、侑はかすみに対して問題提起すらしていません。「~って感じだったけどね?」だと問題提起になります。僅かな差ですが大きな差です。
こういう部分もまた丁寧な脚本と言えるでしょう。「かすみちゃんもせつ菜ちゃんもファンに届けたいものがあるんだね」も同じです。かすみとせつ菜の衝突の話を聞いてもなお侑は両者を理解する立場を示しています。あくまで問題提起するのは行き詰っているかすみ自身。同好会がうまくいかず歩夢も【かわいい】に苦戦している状況で、困っているのはかすみだからです。
かすみが自分達の抱えている問題を「もしかしてかすみん、(せつ菜先輩と)同じことしてる……?」と自分で問題提起すること。スクールアイドル達が自分達の問題を自分達で乗り越えていく、という成長ストーリーを描くにあたって自分で問題提起することには大きな意味があります。
演出の話をすると、上で書いたように侑はかすみより上段で上手にいますよね。このカットではさらに侑のいる方向から光が射しています。そちらに明るい未来が、希望があるという表現です。かすみにとって侑は希望の光なんですね。
幕間・印象的なカット
ここでいったん気分転換に、印象的なカットをいくつか取り上げます。
同好会の部室にワンダーフォーゲル部のプレートがかかっているのをかすみが発見したシーンです。目にハイライトもなく、部室を守れなかったことに対するかすみの悲しみや驚きが伝わってきます。
後ろの手すりなどを見ると空間が歪んでいるのが分かります。パース線が曲線になっているのはレンズを用いた表現です。通常、私達が見ている景色とは異なる見え方をするため印象的なカットとなります。ここではかすみが受けている衝撃をより強調する効果が出ています。
自分がせつ菜と同じことをしていると気づいた後のシーンです。とにかく【かわいい】で構成されているかすみの部屋が映し出されています。かすみが【かわいい】に真剣なことを見せながら、服を椅子にかけて靴下を脱ぎ捨てるガサツさもまたキャラに味を持たせています。
かすみがせつ菜のことを気にしている描写はここ以外にも何回かありますが、そうした描写をはさむことでかすみもせつ菜を必要としていることを描いています。
上で『かすみはスクールアイドルとなるのにせつ菜を必要としない』と書きました。それは確かにそうなんですが、かすみは自分がスクールアイドルになることがゴールでないことを分かっているんですね。それは後半や3話にもつながっていきます。
しずくと話しているシーンでのかすみの想像です。生徒会に抗議するせつ菜以外の元同好会のメンバーが並んでいますが、座り方で個性を出しています。セリフで語らせられることは尺の限界があるので、語らずとも動きや姿勢でキャラをどこまで表現できるかは、特にこうした登場人物が多い作品では重要です。
上手と下手の話をすると、ここでは同好会メンバーは左下から右上に向かって抗議していることに注目してください。下手も下側もともに弱者側のポジションですが、同時に挑戦者のポジションでもあります。右上に生徒会長がいるとして、挑戦する構図になっています。
璃奈と愛がはんぺんをお世話しているシーンです。日陰でお世話しているはんぺんは、続く3話でせつ菜の計らいにより生徒会おさんぽ役員となり事実上の放し飼いが認められる立場になります。それ以来はんぺんは日向で世話される立場になります。
せつ菜がはんぺんを認めたことは、せつ菜がはんぺんの大好きを尊重したことを示すと同時に璃奈と愛を日向へ連れ出すことにも繋がります。さらにかすみが2話ではんぺんをせつ菜にけしかけたのは同好会のメタファーで……は流石に考えすぎですね。
かすみを見つけた璃奈が「はんぺんを連れて行った人」と語っています。ちゃんと説明するのが丁寧ですよね。自然と絡ませるのが上手いなと思います。
隠れて練習する歩夢と目撃する果林
本題に戻ります。歩夢がこっそり練習しているシーンからです。
手前に実在の歩夢をなめて、奥に鏡像の歩夢が見えます。鏡だけだと鏡であることが分かりにくいので歩夢の本物の足を置いています。
鏡に映るのは自分の姿。鏡に向かって練習することは自分の心に向けて練習しているのであり、かすみと果林が言うように伝える相手を考えられていないことを示しています。それでもこうして頑張って練習している歩夢は真面目で可愛いですね。
果林に見つかった歩夢。ここも上手と下手の演出です。上手の果林が上、下手の歩夢は果林にアドバイスをもらいます。悩んでいる歩夢が日陰に、アドバイスを送る果林が日向にという光の演出もあります。
このシーン、恥ずかしがる歩夢に対する果林のセリフが本当に好きなんですよね。「ごめんなさいね。とっておきの可愛いところ見ちゃって」。満点のセリフだと思います。こういうことをさらっと言っちゃうキャラなんですよね、果林って。
「とっておきの」という強調も好きです。歩夢が【かわいい】を真剣に表現しようとしているのを理解していること、それを果林は茶化す気は全くないことが言葉で分かります。
ここでの【かわいい】が、歩夢が表現しているものにも、頑張って表現しようとしている歩夢自身にもかかっていることがまた素晴らしいです。【かわいい】を模索している歩夢が既に果林から見て可愛いことは【かわいい】に多様性があることを改めて明示しています。
「もっと伝える相手のことを意識した方が良いわよ」と語る果林。上でも書いていますが、言っていることはかすみと同じ。歩夢も「頭では分かっているんですけど」と返します。すぐに見抜く果林の聡明さ、かすみが正しかったこと、そのことを歩夢も理解してはいること。どのキャラも下げないのが良いですよね。キャラの魅力を損ねない丁寧な脚本だと思います。
そして応援してくれている侑のことが頭に浮かぶ歩夢。これによって歩夢がこの問題を突破できるのですが、ファンに見せているのか侑に見せているのか、という後半の話数の問題にも繋がっていきます。
ワンダーランドを見つけるかすみ
夕暮れの公園でかすみが侑に心境を吐露するシーンについて書きますが、まずは冒頭の場面を見てください。
橋から海(東京湾)を見ています。
そしてこのシーン。同じように橋から眺めていて対比になっています。今回は同じ方向を侑も見てくれているので、仲間ができたことを意味します。侑はかすみと同じ目線に立って共に考えているんです。
大事にしているものがあるからスクールアイドルがやりたくて、それはきっと他のみんなも同じだと思うとかすみが侑に語ります。しかし押し付けたくない。せつ菜にはせつ菜の大事にしているものがあることをかすみも理解しているわけです。それを尊重したい意思と、しかし自分も曲げたくないために協調が難しいことの対立で悩んでいました。
すると侑は、仕方ないんじゃないかなと半ば思考を放棄するようなことを言います。
ここで侑は海に向かって背を向けました。かすみと違う未来を見ていること、考えが違うことを表現します。最初からでなく、同じ目線に立って悩みを聞いてあげてからなのが大切です。
「仕方ないじゃ困るんですよ」と侑をポコポコ叩くかすみ。身体の向きを変えて侑に向き合っています。侑の考えが分からないんです。そこにかすみの背中から歩夢が現れます。
かすみの視野、考えの外側から歩夢が現れます。その歩夢を侑はかすみ超しに見えています。侑に見えていてかすみに見えていないものを歩夢は持ってきたのです。
歩夢が見つけた答えがこの自己紹介に詰まっています。「かすみんの考えてたのとはちょっと違いますけど【かわいい】から合格です」。かすみのものとは異なる【かわいい】の形。それもまた【かわいい】とかすみが評したことに意味があります。
なにより歩夢がこの自己紹介にかすみがアドバイスしたうさぴょん要素を残していることが美しいです。歩夢はかすみの【かわいい】を否定してはいませんし、共存し得るものなんですね。歩夢の真面目さを示すと同時にかすみの【かわいい】も間違ってはいないことを示しています。
繰り返し繰り返し、話の大事な部分を視聴者へ提示していく。本当に丁寧な脚本です。
そして侑がかすみにやり方を探してみる方が楽しくないかと聞くと、かすみはこう答えます。「楽しいし、かわいいと思います」。楽しくないかという侑のセリフにまず同意したうえで、自らの価値観である【かわいい】を用いた肯定を行うのです。
かすみにとっての【かわいい】とは何か。それは自己顕示です。自らの理想を体現することが彼女にとっての【かわいい】。だから歩夢も可愛かった。かすみとは可愛さが違っても【かわいい】のです。
この時に侑が再び海の方を見ていることも意味があります。改めてかすみの悩みに対して侑は侑なりのアプローチをしているということ。侑はふざけてなどなく、かすみの悩みに真剣だったんですよね。
このアニメではステージに関しての表現を大切にしています。
1話の歩夢は階段を上がって歌います。それは侑だけが観客の彼女のステージ。1話のせつ菜は歌い終わった後に階段を上って去っていきます。これはせつ菜はステージを降りてはいないという演出です。3話のせつ菜がエスカレーターを登るシーンでは、菜々として登ることに意味があります。
とまぁそんな感じでかすみもステージに上がるわけです。この段差でかすみは表現者となり歩夢と侑は観覧者になります。かすみはここでようやくスクールアイドルとなります。
かすみはせつ菜を必要としないスクールアイドルでしたが、せつ菜がいた方がかすみの理想に近いんです。いろんな人がそれぞれ大事にしているものを表現する。そこに多様性があった方が、かすみの【かわいい】も引き立つんです。それは公園のシーンで部員が多くいた方が可愛いかすみんが引き立つからですと発言していることにも掛かっています。かすみは最初から分かっているんですよね。
それぞれがそれぞれの理想を表現すること。それがかすみの理想の世界『ワンダーランド』であり、【かわいい】。
「いろんな【かわいい】も【かっこいい】も一緒にいられる、そんな場所が本当に作れるなら、そこは絶対、世界で一番のワンダーランドです!」
このセリフに詰まっていますよね。私このセリフが本当に好きで、もうこのアニガサキ1期2話は誇張抜きに30回は見てるんですが、毎回ここで涙が出ます。本当に丁寧で美しい脚本だと感動します。
Cパートまで面白い神回
EDが終わっても面白いのが本当に神回なんですよね。
果林に正体を看過されて、せつ菜の眼鏡の光が見えます。眼鏡は仮面です。光で見えていなかったせつ菜の目が見えるようになることで、仮面で覆われている菜々の本心がこれから聞けるという期待感。素晴らしい引きです。
ラブライブシリーズでは通例となっていた生徒会長との対立、そして一番最後の和解。それをしれっと3話で崩しますよという宣告でもありました。外伝扱いだからこそできた挑戦でもあり、ソロ活動だからこそできた挑戦でもあります。
果林の行動の謎が判明し、果林の聡明さも見せます。驚きと期待に満ちた素晴らしい引きです(2回目)。
あとここの菜々が可愛い。
おわりに
まとめればこの回はかすみとせつ菜の対比、表現したいものの多様性とその尊重を軸にしています。
それをかすみ側から徹底して描いています。歩夢と侑の参入がかすみにとっての特異点になっていることもまた分かりやすかったです。当然、3話はせつ菜側から描かれています。
同時に、キャラの魅力も話の中で丁寧に表現していたということを分かっていただけたでしょうか。
ヘイト処理をしながら対比を表現しつつ、キャラの個性を見せると共にテンポよく滑らかに話を進めていく。それは入念に下味をつけて骨を抜き筋を切って臭みをとった料理のような優しさがあります。
アイドルものの作品は、基本的にキャラクターの魅力を伝えることが重要です。ビジネス的にそうなんですが、人数が多くなればなるほど一人一人の出番は限られますし、それでいて新規ファン獲得のためには物語としても面白いものにする必要があるという難しさがあります。
そしてアイドルアニメにおけるメンバーの衝突は、シリアスが重ければ重いほどファンの傷は深まり、軽ければ軽いほどおままごとに見えてしまいます。
そうした中で、せつ菜もかすみも他のキャラも悪者にならないようにしながら、そして侑を目立たせすぎないようにしながら、作品としてテーマを貫き丁寧に表現してコンテンツを知らない人も楽しめる物語にまとめてみせた。しつこいようですが、本当に丁寧な作品でした。
一般に1話は導入であり掴みが大切で、3話は序盤の見せ場となるのでストーリーも演出も山場を迎え派手になります。間に挟まれた2話はタメ回となるのですが、この虹ヶ咲という題材でこれより上手いシナリオは私には想像もつきません。ほぼ文句なしの神回、99点だと思います。
唯一の減点は「だったらかすかすだね」という歩夢の発言です。あれに関してだけはあそこに歩夢ちゃんしか言えるキャラがいなかった(侑には言わせられないので)という事情は理解できるのですが、歩夢は言わないセリフですからね。事情は理解できるので1点だけです。
というわけで『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会1期2話』の感想はいかがでしたでしょうか。
私としてはこの作品以上に語ることができるアニメはそう多くないので、おそらく次以降はこれの半分以下のボリュームになると思います。しかし文字数が熱量でないことは理解してください。私の理解力や表現力が足りなくて言語化できないだけですから。
主要スタッフ(敬称略)
監督 | 河村智之 |
シリーズ構成 | 田中仁 |
脚本 | 田中仁 |
絵コンテ | 河原龍太 |
演出 | 河原龍太 |
主要スタッフとして書かせていただきましたが、アニメは本当に沢山の人が関わっています。どんな役職の人がどんな風に関わっているかはSHIROBAKOというアニメを見てもらえれば分かるかと思います。私も1年半ほどだけアニメ業界にいましたが、大体あんな感じでした。
脚本にしたってコンテにしたって、クレジットされている人のものがそのまま映像になって出てくることは極めて稀だと思います。削ったり変更したりすることは良くあります。というか尺的に後で削れるように作っていきます。
というわけで、ここに書いた方々はあくまで主要スタッフです。そこはご留意ください。それは今後どのシリーズにおいても同様です。本当は全員の名前を書きたいくらいです。多すぎるので許してください。
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