今までインプットをおざなりにして生きてきたことを反省し、アニメや映画やラノベを見てブログに感想と学びを書いていこうと思い立ちました。
そうして始まった【感想と学び】シリーズの3作目、ラノベ【大っっっっっっっっっっ嫌いなアイツとテレパシーで繋がったら⁉】を書いていきます。
ネタバレもちろんあります。作品の説明は最低限にしかしません。
簡単な紹介
超大企業である赤坂グループの娘であるヒロイン・赤坂と、大企業だったが赤坂グループによって没落させられた有栖川グループの息子である主人公・譲の物語。
9歳のころ突然テレパシー能力「交信」を手にした赤坂と譲は、心拍数が上昇すると感情とともに心の声が勝手に相手に送信されてしまう。離れたところで暮らす全くの他人ながら心のやりとりを通じて喧嘩を繰り返してきた2人が再会するところから始まる。
嫌い合いながらもお互いに相手を深いところで知っている(しかし出会ったばかりで知らないことも多い)という設定を活かしたラブコメだが、交通事故をきっかけに2人は禁忌としてきた「更新」に手をかける。
実は2人の交信には3分のラグがあり、赤坂の心の声は3分後に譲に届き、逆に譲の声は3分前の赤坂に届く。したがって譲の声を聞いた3分前の赤坂が行動を変えることによって、未来を変えてしまえるのだ。そこにおいて譲には3分前の記憶が残り、赤坂もきっかけがあれば存在したはずの3分間を思い出す。
要は2人の合体技としてタイムリープができてしまえるということで、赤坂グループが抱える天才物理学者・六本木によって研究対象として2人は狙われてしまう。唐突に訪れた非日常の中で2人は関係を深めていき、協力者である公安警察の旭と皐月と共に六本木との戦いに勝利する。
素直になれないけれど否応なく心の声は送信されてしまう、という環境の中で、2人はお互いに悩みを告白して前に進んでいく。
仕込み
読者を驚かせる仕込みが複数あるという部分がまず気になりました。
2人の交信には時差があること、同級生の皐月が実は同級生でなく潜入していた大人だったこと、皐月と旭が付き合っていたこと、皐月と旭は公安警察でも何でもなかったこと、皐月と旭も能力者だったこと、赤坂グループに嵌められたわけでなく六本木が独断でやっていたこと、その六本木を仕向けたのは皐月と旭だったこと、そして能力者は30歳で死んでしまうということ……。
何度も読者を裏切り、エピローグでも読者を驚かせます。作中で何度も譲は旭のことを「信用できない」と言っていて、結局それは間違っていませんでした。
大人に翻弄される2人の子供というのがメインの構図になるなかで、読者も翻弄されることによって2人の子供(特に譲)の視点に立てるという仕組みです。
構図
「考えなさすぎる」赤坂と、「考えすぎる」譲の対比と設定との親和性が高いなと感じました。
タイムリープする「交信」は譲の声を聴いて赤坂が行動することによって起こるのであり、つまり譲の思考を赤坂が行動に変換することで起こしています。その一方で、作品では譲が行動することで母親との問題を解消しますし、赤坂は思考するころで「逃げてはいけない」という呪縛から一定の解放を得ます。
お互いに相手がいたから、相手との関係性によって前進できたという構成になっています。それは1対1のラブコメとして王道で良いなと思いました。対比とそれに伴う双方向の作用で関係性に意味を付けていくのは私も目指すところです。
なお2人の対比は「逃げていた」譲と「逃げられない」赤坂など、表面的な設定から物語の根幹まで多重に存在しています。2人の対比を見せることで、社会や大人に翻弄されている子供という2人の共通項がより印象的になっているのかもしれません。
設定について
SF的な設定が並びますが、話を膨らませる余地は大いに残しながらも作品の中では焦点を絞っていた印象です。やや多いかもしれませんが、じゃあどこを削ればよかったかというとすぐには思いつきません。だいたいの設定が作品の中で生かされていると感じました。
2人の能力について。強力な能力は条件をつけないと作品の中で暴走してしまいます。「ここでこうしていたらよかったのでは」なんてツッコミが生まれてしまいます。便利すぎるんですよね。特に洗脳とか記憶操作とか時間操作とか。自由度も高いですし。
本作品では「3分間」「心拍数の上昇」「譲から赤坂に」という条件が設けられています。
心拍数の上昇は特に良いと思いました。基本的に作品は主人公の感情にライドする形で読者も読み進めていくものですから、疾走感を大事にしているこの作品には合っていました。譲の心拍数で緩急を鮮明にしていて、アトラクションのような小説と言えるかもしれません。
感想
面白かったです。あらすじも読まずに買ったので、てっきり学園ラブコメかと思っていました。だから途中からびっくりしました。
かなり内容が詰め込まれていて、満足感があります。よく一巻にまとまっているなぁと。人によっては展開が早く感じるかもしれません。私はそんなことなかったですけどね。なんとなくアニメ1クールくらいの起承転結を感じました。原作をやや間引いて1クール構成にしたアニメ、みたいな。
欲を出してみます。
- 譲が誘拐犯とされているのに、過激な思想を持つ譲の母親に警察とかがノーマークなのは少し不自然に感じました。別に必要でもないので、ほんの一文でもそれっぽい説明があれば十分だったんですけどね。
- 逃亡中なのに買い物を楽しんだりバイオリンを演奏したりお酒に酔ったりするのは、緊張感どこ行ったっけ……?となりました。でもこれ、緊迫とラブコメを両立させることの難しさを物語っていますよね。有名なところだと新海誠監督の映画「天気の子」とかもこれに近いところがあります。
- 逃亡中なのに家からの電話に出てしまう譲は、子供らしいとか庇護欲を求めているからとか言われてしまうとそれまでなのですが、慎重な彼らしくなかった気もしました。
- 赤坂からの交信は3分後に聞こえるので、赤坂は自分の恥ずかしい心の声が譲に聞こえてしまうことに気づいてから3分の時間があるんですよね。その間に彼女が照れていることで譲(と読者)はドキドキできるわけです。このあたりの設定は魅力的に感じたので、もう少しそういう場面が欲しかったです。
- 仕方のないことですが、失恋好きな身としては皐月が彼氏持ちなのはショックでした。
- 続編ありきなのかもしれませんが、含みが多く、爽快感が失われてしまっている気もしました。特に最後のシーンですね。そういう終わり方も好きなのですが、この作品は気持ちよく終わってほしかったなと。好みの問題かもしれません。
こんな感じです。もし続編があったら読みたいと思います。挿絵も多くて、赤坂もちゃんと可愛げがあって良いですね。面白かったです。
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