しません。
もったいぶるブログが好きじゃないので一番最初に私の主張を書いておきます。
しません。
いや一大父系には遠くない未来になりそうですが、別にそれを理由に衰退しないと思います。
どうしてそんなこと言うんだ、と思う方だけ続きを読んでいただければと思います。
まず三大父系とは
いろんなところで擦られているので超簡潔に解説しますが、サラブレッドの歴史として英国の牝馬に買ってきた(奪ってきた)アラブの牡馬を交配して生まれた馬たちに競走させ、より早く長く走れる良い馬を選定しようというのが始まりでした。
それはまだまだ戦争に馬が駆り出されていた時代の話です。
(※騎馬隊は第一次大戦までは現役ですし今でも英国警察では現役です)
しばらくして血統を整理しようという動きがあり、そこで「血統」が誕生しました。当然インターネットもなければ遺伝子検査もないころの話なので詳しいところは怪しいのですが、まぁそれを基準に考えるしかないので、それをもとに血統表というのは作られ始めます。
この血統表を読み解くことで、だいたい100頭ちょっとくらい血統的な「始祖」がいて、そのうち3頭以外は早々に脱落してしまったという流れになっています。というかこの始祖の中で3頭の際サイアーラインから出た御三家的な馬が3頭いて、彼らが事実上の始祖として今まで父系をつないできたという流れです。
そこにおける始祖が
・ダーレーアラビアン
・ゴドルフィンアラビアン
・バイアリーターク
ウマ娘にも出ていますし有名だと思います。
そして彼らが出した御三家(勝手に私がそう呼んでいるだけ)が、
・エクリプス
・マッチェム
・ヘロド
という3頭でした。
これら以外の父系は今はもう絶えているということになっています。これはほぼ確実です。そしてこのうちダーレーアラビアンからエクリプスにつながるライン以外はほぼ絶えているというのが、今回のタイトルにつながっています。
まぁ知ってますよね。知っている人しかこの記事見てないでしょう。もう少し詳しく書いているのでよかったら過去記事も読んであげてください。
一大父系でも別に問題はない
父系としてダーレーアラビアンの一強状態になったのがいつからかというのは難しい問いになってしまいます。なぜなら昔であればあるほど生産頭数とかを調べるのが大変だからです。それも米英愛仏だけならまだしも、独とか伊とか亜とか入れたら正直無理。
ですが、まぁセントサイモンをバイアリータークの父系だったと見做した場合でも、セントサイモンの時代は1900年くらいで終わります。
(※セントサイモンはキングファーガスの子孫ではなくヘロドからの子孫だったという有名な説があります)
で、そのあとはまぁごにょごにょとエクリプス系統が伸びたりして、そうこうしてたらノーザンダンサーが60年代には出てきて終了と。だから世界全体では最低でも50年はダーレーアラビアン系の一強状態なんですよね。
じゃあそれで競馬がここ50年で衰退していっているのかというと、中にはそう感じる方もいると思うんですけど、そんなことないでしょう。
米国や英愛仏が最近弱くなってるのはシンプルに生産頭数の問題だと思います。全体の母数が減れば倍率が下がった上澄みのクオリティも低下するのは当たり前なことですよね。
生産頭数が減っているのは別に遺伝子が濃くなって産めなくなっているからではなくて産ませようとする数が減っているだけなので、関係は(おそらく)ない。
勘違いしてほしくないのは「インブリードなんて気にしなくて良い」って言っているんじゃなくて、インブリードを“過剰に”警戒しなくて良いということが言いたいんです。
それこそ大成功している大種牡馬デインヒルってノーザンダンサーの母ナタルマの3×3ですよね。でももう誰も気にしてない。むしろデインヒルのクロスを求める人もいる。それはなぜかというと、インブリードによる懸念として挙げられる先天的な遺伝子疾患のリスクに対して上振れを引いていると思われているからですよ。
顕性遺伝子と潜性遺伝子が存在して、どちらかになるときにアウトブリードなら顕性遺伝子が優位になるし、問題ある遺伝子を持つ馬は将来的に馬産から淘汰されるために問題ある顕性遺伝子を持つ馬は代を経るにつれていなくなる。
対してインブリードの場合は問題ある潜性遺伝子が潜性遺伝子同士から選ばれたときに問題あるのに優位に立ってしまう、つまり馬産による遺伝子淘汰がかいくぐられてしまうというのが懸念点でした。
でもインブリードだからって必ずしもそれが発生しているわけではないのだから、3×3とかでもそのパターンを引いていない(つまり普通に問題のある潜性遺伝子が淘汰されている)可能性があるわけで、それだと思われているんですよね。
その場合ってデインヒル自体は濃いインブリードを持っているけれど、種牡馬実績からおそらく問題がないので気にしないで良いということになると思うんですよ。
もちろんこれはデインヒルくらい年月が経ったから言えることで、シンエンペラー(母がミスワキの3×3)とかマスカレードボール(自身がサンデーの3×3)の場合は分かりませんけどね。
それからタスティエーラって、五代血統表で見たらノーザンダンサーの5×5しかクロスがない。じゃあこれはアウトブリードだって思うじゃないですか。
でも拡大すればサーアイヴァーにバックパサーにミスタープロスペクターってたくさんクロスは隠れていますし、母母母父ノーザンテーストなんて3×2のクロスを持っているんですよね。
でも、みんなそれを理由に気にしない。
前述したデインヒル同様にノーザンテーストが抱える濃いクロスを怖がらない。
むしろノーザンテーストの4×3のクロス持ちであるオルフェーヴルが普通に種牡馬やってますよね。話題のライラックなんて、オルフェ産駒でさらに母母母父にノーザンテースト持ってますよ。
ノーザンダンサーをトータルで何本持っているかと成績の相関とか、現代のドサージュ理論みたいなものを調べてみると面白いのかもしれませんが、まぁ途方もないのでしませんし、調べきれないくらいに広まっているからノーザンダンサー系の中でももう多様性は生まれています。
こうした理由から、一大父系になろうと問題はないと私は考えています。
インブリードはサラブレッドの宿命
父と母がそれぞれ1本以上抱えている状態での濃いインブリードは危険とされています。人間だって近親相姦は(倫理面以外でも)良くないことだと言われます。だから基本は避けられるなら避けた方が良い。
しかしサラブレッドとは、その定義からして「サラブレッドとサラブレッドから生まれた馬しかサラブレッドと見なさない」のですから、大元をたどればどう足掻いてもヘロドとかの超多重クロスになるわけですし、それはタッチストンでも、ザテトラークでも、ディスカバリーでもそうなるわけです。
そしてサラブレッドとはそういう「優秀な遺伝子のみを持つ馬」を生産しようとしているわけですから、そもそもの部分で血統に多様性が必要だという主張は定義に逆らっていますよね。
まぁもう軍馬としては運用しないんですし、頑丈で昔みたいに3日に1回レースできるような競走馬を育てたいという人もいるでしょうが(私は興行としてありだと思っています)、やっぱり年10走できるGⅡ5勝の馬よりも年4走しか走れないダービー馬の方が種牡馬として人気するわけで、この流れは途切れる気配はありません。
かつてヘロド – ハイフライヤー – サーピーターティーズルと三代で馬産を席巻したときも、ガロピン – セントサイモンの親子のクロス持ちだらけになったときも、レベルの上下は主観を含むのでおいておくとして、競馬は続いてきたわけです。
そして今となっては上述したように濃いクロスを持っている馬たちを先祖に持つ種牡馬で「アウトブリード」が行われているのですから、これはこの先もよほどのことが無い限り続いていくでしょう。
もっと言えば別に大元の「始祖」にしたって母方では血が通っているように、父系として続いているかどうかは血統表の一番上の行で名前が残っているかどうかだけの話で、遺伝子的には父父だろうと母父だろうと2代前としては同じなんですよね。(実際には父と母で遺伝に差がありますが)
現代科学では父系でのみ受け継ぐことのできる(つまり父からしか遺伝しない)競走や繁殖に決定的にかかわる遺伝子というのはまだ見つかっていないので、であれば父系は単なるブランドであると言わざるをえないのが現実です。
だから「父系としての存続が……!」というのは、我々血統好きの人間がロマンや歴史を語るためのものでしかないんですよ。
結論:父系の多様性、気にしなくていいです
自由で開かれた市場において、たけのこの里が異常に人気して、もうみんなたけのこの里しか食べなくなったとしますよね。スーパーのチョコ菓子コーナーがアメリカくらい商品にバリエーションがなくなって、一面たけのこの里。端っこにアルフォートみたいな。
そしてそのうちたけのこの里の売れ行きが当初より渋ったとします。そしたら人々はアルフォートに手を伸ばすかと言えば、そうじゃない。たけのこの里っぽいたけのこの里ではないものが人気しはじめる。
たけのこの里のイチゴ味が出てきて、クッキー味、キャラメル味って出てくる。やがてたけのこの里の平たいバージョンとかいう「ほぼアルフォートじゃん」みたいなお菓子が出てきて、細長いバージョン(ほぼポッキー)とか先端だけチョコバージョン(ほぼきのこの森)が売られ始める。
そうしてまたチョコ菓子コーナーはたけのこの里コーナーに名前を変えて、バリエーション豊かになっていく。
サラブレッドの血統もそれと同じだと思うんですよ。ストックウェルがめちゃくちゃ流行ったことなんて、今はもう誰も気にしていませんよね。血統表にポカホンタスが何本あるとか誰も数えてないと思うんですよ。
血統表の品揃えは、三大始祖コーナーからエクリプスコーナーに変わっただけ。ネアルコ祭りになったとしても、その中での多様性がちゃんとありますし、そこに対しての検査も機能しています。
だからロマンとしての悲喜交々はあっても危機感はなくていいと思います。
貴方が牧場やクラブの経営者でないのなら、の話ですけどね。
