感想と学び29作目「クラスの美少女たちの素顔を、雇われた俺だけが知っている」

今までインプットをおざなりにして生きてきたことを反省し、アニメや映画やラノベを見てブログに感想と学びを書いていこうと思い立ちました。

そうして始まった【感想と学び】シリーズの29作目、ラノベ【クラスの美少女たちの素顔を、雇われた俺だけが知っている】を書いていきます。

ネタバレもちろんあります。作品の説明は最低限にしかしません。


簡単な紹介

このシリーズで三度目の紹介となる、六畳のえる先生の作品。作者の頭の良さが伝わってくるような構成の良さ、読みやすさがとても好きだし勉強になる。そんなわけで私は先生の作品(特にラノベ)は追いかけるようにしている。

今作の主人公・角野祥平は高校二年生。わけあってお金に困っており、勉学で優秀な成績を収めることを条件とした奨学金で高校に入学している。そんな彼が都合により母が努めているハウスキーパー(≒家政婦)のアルバイトを担当することになった。

しかし角野がハウスキーパーとして担当することになった家は、偶然にも同じクラスのアイドル的な美少女三人の家であった。一人は清楚系社長令嬢、一人は快活な犬系シンガー、一人はクール系女優。とりわけメインとなるのは清楚系社長令嬢・二条伊澄。

アルバイトしていることを知られると退学の危機にある(バイト禁止の身であるため)角野は、名を「角野(かどの)」をもじった「住谷(すみや)」と名乗り、素性を明かさないようマスクをし眼鏡をかけた状態で勤めることにする。

三人の家で仕事をして時にムフフな展開もありつつ意外な一面を知ったりしながら仲を深めていく角野は、社長令嬢・伊澄の悩みの解決のため動く。多忙な彼女を支えながら、彼女が彼女以上に多忙な両親との時間を作りたいと願っていることに共感し、最終的には両親と直接話すことで事態が前進した。

構成の分析

第21作目の「イマリさんは旅上戸」で登場させてから出オチが如く脈絡なく消えていた構成の分析ですが、今回復活させようと思います。

今作のシークエンスとしては起/起/起/承/転/結といった感じでしょうか。「起」が三つあるのはヒロインが三人いるからで、これは構成上やむをえない。シリーズ化が決まっていたんですかね? まぁせっかくなら美少女なんて多い方が良いですし。

家というのは一般に究極のプライベートな空間なので、創作においてはしばしばその人の内面の比喩になります。だから相手の家に入るというのは内面への踏み込みを意味するわけですが、今回は仕事として向かっているので、土足で踏み込むというよりは用意されたスリッパに履き替えて歓待されているという構図になっています。

だから相手の内面に踏み入ってはいつつも、相手が内面を全て開示しているわけではないというか、それは見せることを意図した内面なんですよね。内側の外面。
例外は三人目の美少女であるクール系女優ですが、彼女が特集されるなら(あるか分かりませんが)おそらく三巻まで待たないといけませんし、そもそも女優の彼女は三人の中でも飛び切り優位な存在なので落としてくる必要があったということなんだと思います。

社長令嬢の伊澄とは、何度か彼女の家に訪れるにあたってだんだんと彼女のことを知っていきます。実は納豆ごはんのような庶民的なものも食べるだとか、会社を引き継ぐことを期待されて習い事が大変だとか。そして最終的には寂しく感じていることの相談までされる仲となりました。

彼女の内面である家の中で、彼女が少しずつ内面を晒していく。まず踏み入ってから閉鎖的な空間の中で自らが溶け込むことによりアウェイ感を薄れさせていくという「嫁入り型」の構成ができるのはハウスキーパーという題材の良いところだなと思っていて。初手から隠しごとが通用しにくい環境でスタートするのって、単純なボーイミーツガールとはまた違った良さがあると思うんですよね。

そしてこれが最近のタイパ重視のとにかくテンポの良さを求められる創作事情には合致していると感じます。マガジンの「カッコウの許嫁」も同居スタートですし、ジャンプの「ひまてん!」は今作と同じハウスキーパーです。まず飛び込んでしまってクローズドな環境を設定することからスタートするのは一足飛びで危険もありますが、今後さらに増えていくのではないかなと思っています。

ちょっと話がズレてしまいましたが、構成としては主人公側が素性を明かせないというのも重要です。つまりヒロインたちの家に踏み入りながら自分は仮面をつけて接しているわけで、相手の内面を覗き見つつ自分の内面には鍵までかけている。このアンバランスな一方通行をどうするのか、次回作では楽しみにしたいと思います。

感想

あくまでヒロインたちが気に入っているのはハウスキーパーの住谷くんであって主人公の角野くんではない。そこがネックでありながら、二巻目に向けてのフックでもある。まぁ普通は同い年で声も身長も一緒だから気付くよねという話ですし(作中でもツッコミあり)、伊澄なんかは匂わせもあったように気付いてました展開にはいつでも持っていけると思います。

三人の中でハウスキーパーの住谷くんがクラスメイトだと知ったときに一番インパクトがデカいのは、最も家の内外でキャラが異なるクール系女優・久瀬律花でしょう。犬系シンガーの小夜は胸が大きいと言われているのでピンク担当も期待したいところですね。それとも2人にまだ秘密があるのでしょうか。伊澄さんとの素性を明かしての交流も見たいところですが……。

2巻も楽しみです。