シンエンペラー、負けました。
それも結構負けました。
かなりショックです。こんなに負けるとは思ってなかった。
今でもちゃんと敗因がわかるわけじゃないけど、いろんな人がいろんなことを言っている中で、私も予想記事を書いた身として考察を残しておきます。
なお予想記事はこちらです。
敗因考察
敗因考察① 馬場?
真っ先に語られる敗因は馬場が重いということ。
ただ今回のペネトロメーター(芝の重さ。数値が低いほど軽く高いほど重い。詳細はこちら)は3.6。去年のスルーセブンシーズが戦えた馬場は3.3だったので、それには及ばないまでもロンシャンとしてはマシな方ではありました。
ちなみにタイトルホルダーらが沈んだ一昨年は3.9、その更に前年のクロノジェネシスが泥にまみれた年は4.2、シンエンペラーの全兄Sottsass(ソットサス)が勝った2020年は4.6。
これらの数字をふまえると、今年の3.6という数字はノーチャンスだったとは思えません。
シンエンペラーはあくまで全弟だからSottsassにあんまり似てないという可能性も当然考えられますが、しかしこれまでの走りからは全兄や半姉とそう変わらない走りや成長曲線を見せていて、だから馬が大きく異なるとは思いにくいんですよね。
そのシンエンペラーが3.6の馬場で沈むのにSottsassは4.6でも勝てるというのは、なかなか納得しにくい。4.0を超えるようだと厳しいとは思うんですが、3.6なら日本馬でもやれて良いはず。
実際、今年の1,3着はCamelot(キャメロット)の産駒ですが、このCamelotは自身は重馬場の凱旋門賞で惨敗していますし(ソレミアにオルフェが負けた年です)、産駒も堅い馬場の方が強い傾向にあります。
Montjeu(モンジュー)産駒とはいえ母父Kingmambo(キングマンボ)に母母父Danehill(デインヒル)。スピードを意識した中距離馬なんですよ。セントレジャー負けてますし。
予想記事で書いたようにヴェルメイユ賞は同じ日に同じ距離で行われたニエル賞より3秒早かった。Sosie(ソジー)らよりもスピードで結果を出した2頭がそのままワンツーを決めたわけです。
これらの事実から、今年の馬場は重馬場巧者の重戦車のような馬に向いたものではなく、比較的パワーよりもスピードに長けた馬の方が結果を出せた馬場だった。したがってシンエンペラーの敗因が馬場だと言い切るのは難しい、と私は結論付けます。
敗因考察② 坂?
レースを見返すとシンエンペラーはフォルスストレートの時点で若干手応えが怪しいです。
シンエンペラーは兄や姉の戦績を見ても基本的には2000が距離適性で持続力に長けているから2400までこなせるという馬なので、スタミナ的に2400は節約しながら走りたいところではありました。
凱旋門賞には日本の競馬場にはないアップダウンがあり、特に下り坂は大きな障害になっていると考えられています。人間でもそうですが下り坂で不必要なペースアップをしてしまい体力を消耗するというのはあります。ブレーキという上り坂とは違う負担が脚に掛かるのも小さくありません。
そしてこの坂で加速してしまわないように我慢して走るというのは、日本国内ではほぼ経験できません。欧州の調教で下り坂があるのかを私は浅学のため知らないのですが、少なくとも実戦では経験できるはずで、京都を少し走った程度の日本馬では経験値に差が出てしまうのは仕方ないところがあるかと思います。
これについては対策が難しいです。まさか凱旋門賞のためだけに下り坂のコースを用意するわけにもいきませんし、実戦で練習するか適性ある馬を連れて行くしかない。
この適性の部分で、次に挙げる敗因にも絡んでくると思います。
敗因考察③ 馬体重?
一時期は牝馬が強かったことからも言われるようになった「小柄な馬じゃないとダメ」論。
確かに日本馬で好走したのはエルコンもオルフェもフェスタも軽い馬でした。
これは幾つか考えられると思います。
まず凱旋門賞というタフなレースには日本的にはスラっとした馬体で長い距離を走れる馬が向いているという可能性。
それから、上述したような坂での負担は単純に馬体重が軽い方が少なくなるという可能性。
最後に、沈み込むようなロンシャンの芝だと(特に重い馬場や荒れた馬場なら)小柄な方が重心のブレを軽く済ませられて走りやすいという可能性。
これら3点、個人的にはどれもあり得るかなと思います。
海外の馬は馬体重を調べても出てこないので断定するのは難しいですが、例えば凱旋門賞の実績も豊富な究極の持続力血統Ribot(リボー)は馬体は小さくないのに体重は410kgほどしかなかったといいますし、そういう馬が強いのは間違いないでしょう。
日本馬だとエルコンが470kgくらい。オルフェとフェスタは約460kg。スルーセブンシーズは約450kg。重い方だとキズナが480kgほど。
ジャパンCに来日した凱旋門賞馬なら体重が簡単にわかって、Montjeuは484kgだったそうです。ドイツ馬のDaneDream(デインドリーム)は426kg。
シンエンペラーの馬体重を危惧する声はありました。私だって当然これらの傾向は知っていましたし、でもシンエンペラーは480kgくらいだったので大丈夫だと思っていました。これくらいなら許容範囲だろうと。
520kgあるような馬ならまだしも480kgなら、やれておかしくないと思うんです。というか過去に好走した馬がいる範囲ですよね。
軽いに越したことはないですが、軽くてもパワーは必要ですし、ステゴ系のように軽くて力強いというのは日本だと珍しい上に血統を繋げにくいので、結果で見せてほしいと思ったのですが……。
結論としては、坂があるから馬体重は軽い方が良いが、過去実績がないような体重ではなかったし、スタミナ的に苦しくなった一因ではあるだろうが決定的な差かは判別しにくい、とします。
敗因考察④ 枠?
海外のレースということもあり権利がどうなっているかに自信持てないので画像等での引用は控えますが、レース映像を見てもらえば内外の馬で着順がまるで違うのが分かっていただけると思います。
具体的に言えば、内にいた馬ばかりで上位を独占しています。(※前残りではないです)
実はの話ですが、Sottsassが勝ったのも内からです。スルーセブンシーズも内で我慢して馬群を縫って差しました。今年の上位メンバーもみんな内を通ってきています。
内の方が馬場が良いというのはあるかもしれません。ただそれ以上に消耗を防げるのかなと思います。
それだけ道中我慢しないといけないということなのでしょう。そしてそれが難しいから外枠の馬は成績が悪い。シンエンペラーの隣の枠の馬は片方は逃げることで内を回り、片方は後方から一発を狙いました。シンエンペラーは最後方から差しきるのもテンで頭まで行くのも厳しいので、瑠星に何ができたか分かりませんが……。
敗因考察⑤ 実力不足?
何人か言っているのを見かけました。実力がそもそも足りていないのではと。
これに関しては、はっきりと言わせてもらいます。そんなことはありません。
確かにシンエンペラーは日本競馬で現役トップの馬ではありません。世代の頂点でもありません。G1を勝ったことはありません。
でも今年の凱旋門賞の参戦馬の中で大きく見劣りする馬ではなかったと思います。愛チャンでは3着に走れていますし、日本ダービーも3着です。過去に好走した日本馬に確かに実績では負けていますが、それがこの着差にそのまま反映されているとはとても思いません。
単純な負け具合で言えば、シンエンペラーはタイトルホルダーやドウデュースよりマシだと思いますし、昔ならマンハッタンカフェとかジャスタウェイだって実績は上でももっと負けています。
Blue Stocking(ブルーストッキング)はまだしも、Aventure(アヴァンチュール)に負けているとはとても思えないんですよ。Sosie(ソジー)だって愛チャンでシンエンペラーよりも良い走りが出来る馬でしょうか。
今年の凱旋門賞は抜けて強い馬はいなかったと思います。安定して上位になる馬はいたとしても、枠を変えるたびに馬券は変わっていたと思います。そしてシンエンペラーが太刀打ちできないほど能力に差があったということは、ないでしょう。
まとめ
シンエンペラーがなぜああも負けたのか。
そして日本馬はどうすれば勝てるか、どんな馬なら勝てるか。
まずは馬体重が480kg台以下くらいで2400m以上走れるスタミナのある馬を準備します。
その馬が斤量負けしない重量で参戦します。斤量をこなせるのなら古馬牡馬でも大丈夫です。
それから頑張ってペネトロメーターは4.0を下回るよう祈ります。3.5未満だと尚良いですが、あんまり低いと散水されるのでどのみち3.3くらいが下限ではあるでしょう。
そして内枠になることを祈ります。内枠が取れなくても、頑張って内に潜り込みましょう。無理ならせめて前に壁を作りましょう。
坂では絶対に動かないこと。下り坂でもグッと我慢させます。
そして直線で前を交わします。ハイペースでない限りは前を意識しておきましょう。
これでおそらく勝ち負けすることができます。
血統は凱旋門実績ある方が望ましいでしょう。
特にRibotやドイツのAライン。一番身近なのはRibotからのHis Majesty(ヒズマジェスティ)、およびそれを含むDanehill。該当する馬は日本のG1馬でも沢山います。東京2400でもRibotは強いですからね。シャフリヤールとか。
重馬場巧者を意識するよりスピードを意識した馬の方が良いです。せっかく軽い馬場で内枠とれたのにスピード負けしたら悔やみきれないですし。最後はキレ勝負になるので瞬発力も重要です。フランス競馬は基本直線勝負ですからね。
走法はできればピッチ走法の馬で挑みましょう。
脚質はポジションも取れる先行が望ましいです。
……とまぁ、結局は毎年似たような結論になってはしまうんですけどね。
そんな条件が簡単に揃うなら苦労なんてないわけで。
凱旋門賞を諦めないでほしい
「運ゲーじゃん」
「日本の競馬とは別ゲーだから行かなくていい」
そう思う人もいるでしょう。実際、日本の競馬とは求められるものが大きく異なるのは事実だと思います。
ただ言いたいのは、それは競馬の常であるということ。
例えばスプリンターズSは、近年は内枠で前のポジションを取った馬が勝っています。外枠の馬や差し馬はほぼほぼチャンスありません。これは凱旋門賞に近い状況だと思います。
でもだからと言って、じゃあ今年スプリンターズSに参戦して負けた香港馬のファンが仮に「こんなの運ゲーで来る意味のないレースだ。香港なら俺たちが勝てる」なんて言っていたら、みっともないなと思いませんか。
しかも日本馬は適性面で戦えるとされているドバイでも現役トップ級のメンバーが負けていますし、英国際SでもBlue Stockingにドゥレッツァが負けています。凱旋門賞以外で勝てているならまだしも、得意の馬場でも欧州馬には勝ててないんだから負け惜しみにしかなりませんよ。
そして凱旋門賞を目指すことの意義を、今一度考えるべきです。
いわゆるサラブレッドの競馬は英国に始まりました。その後欧州に広がり、米国や南米や豪州、そして日本や香港が追随しています。
しかしその過程では現在世界最大の馬産規模を誇る米国ですら欧州に馬鹿にされていた歴史がありました。主要競馬に遠征して勝ち、生産した馬たちが他国で結果を出したことで認められてきたのです。
日本競馬はジャパンCで蹂躙されることはなくなりましたし、ドバイをはじめとして世界の大レースで勝利や善戦を重ね、今では世界有数の競馬大国となっています。でもそんな日本馬がまだ取れていない大レースがいくつかあって、そのうちの一つが凱旋門賞なんです。
競馬のガラパゴス化は、むしろ歓迎されるべきです。
豪州が芝短距離祭りとなり、ダートでは米国が、欧州では芝の短距離と中長距離はほぼ隔てられた別競技のようになっています。でもそのおかげでNorthern Dancer(ノーザンダンサー)でさえ血統が煮詰まるようなことにはならずに済んでいます。
そのうえで、日本の実績馬が欧州の大レースで勝つ。それを目指してほしい。
極端な話をしてしまえば、ロンシャンそっくりのコースと馬場を北海道にでも再現して、欧州の馬を買ってきて受験生みたいに凱旋門賞対策合宿させてれば勝てる可能性は上がると思うんですよ。
今回シンエンペラーで参戦したように、例えばAlpinista(アルピニスタ)の全妹とか買ってきて長期滞在調教をしていたら、もっと期待値は上がるかもしれない。でもそれで勝っても納得できますか?
ダービーの予想記事で「個人的には凱旋門賞も日本の競馬でトップクラスの馬が制してこそ価値があると思っている」と書きました。シンエンペラーは日本競馬でしっかり世代トップクラスの実力を見せてから挑んでくれました。それがまず嬉しかったし、それを実現した陣営は本当に素晴らしい。
日本競馬が凱旋門賞を勝つ瞬間を見たいし諦めてほしくない。
矢作や藤田ならそれが出来ると私は信じています。
何度でも、ロンシャンに夢を見ましょう。
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